Pacta Sunt Servanda

「合意は拘束する」自分自身の学修便宜のため、備忘録ないし知識まとめのブログです。 ブログの性質上、リプライは御期待に沿えないことがあります。記事内容の学術的な正確性は担保致しかねます。 判決文は裁判所ホームページから引用してますが、記事の中ではその旨の言及は割愛いたします。

百選63事件 立川テント村事件(最二判平成20年4月11日)

(2) 前記1の立川宿舎の各号棟の構造及び出入口の状況,その敷地と周辺土地や道路との囲障等の状況,その管理の状況等によれば,各号棟の1階出入口から各室玄関前までの部分は,居住用の建物である宿舎の各号棟の建物の一部であり,宿舎管理者の管理に係るものであるから,居住用の建物の一部として刑法130条にいう「人の看守する邸宅」に当たるものと解され,また,各号棟の敷地のうち建築物が建築されている部分を除く部分は,各号棟の建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより,これが各号棟の建物の付属地として建物利用のために供されるものであることを明示していると認められるから,上記部分は,「人の看守する邸宅」の囲にょう地として,邸宅侵入罪の客体になるものというべきである(最高裁昭和49年(あ)第736号同51年3月4日第一小法廷判決・刑集30巻2号79頁参照)。

(2) 確かに,表現の自由は,民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず,被告人らによるその政治的意見を記載したビラの配布は,表現の自由の行使ということができるしかしながら,憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというベきである(最高裁昭和59年(あ)第206号同年12月18日第三小法廷判決・刑集38巻12号3026頁参照)。本件では,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく,表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ,本件で被告人らが立ち入った場所は,防衛庁の職員及びその家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分及びその敷地であり,自衛隊防衛庁当局がそのような場所として管理していたもので,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは,管理権者の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。したがって,本件被告人らの行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。このように解することができることは,当裁判所の判例(昭和41年(あ)第536号同43年12月18日大法廷判決・刑集22巻13号1549頁,昭和42年(あ)第1626号同45年6月17日大法廷判決・刑集24巻6号280頁)の趣旨に徴して明らかである。所論は理由がない。