Pacta Sunt Servanda

「合意は拘束する」自分自身の学修便宜のため、備忘録ないし知識まとめのブログです。 ブログの性質上、リプライは御期待に沿えないことがあります。記事内容の学術的な正確性は担保致しかねます。 判決文は裁判所ホームページから引用してますが、記事の中ではその旨の言及は割愛いたします。

Nシステム(東京高判平成21年1月29日)

 控訴人らは,技術の常識からも,Nシステムの目的からも,一部又は全部の車両について画像の保存がされていることは明らかであると主張する。

 しかしながら,これらは明確な裏付けを欠く憶測にすぎず,控訴人ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

 ア 控訴人らは,Nシステムによる情報収集の真の目的を検討しなければ,目的の正当性は判断できないと主張するが,その真の目的について具体的に主張するところはない。Nシステム等の情報収集の目的が自動車使用犯罪の犯人の検挙等犯罪捜査の必要及び犯罪被害の早期回復にあると認められることは,上記引用の原判決の示すとおりであって,他に真の目的があることを認めるに足りる証拠はない

 ウ 控訴人らは,情報流出事故があったことを理由に,Nシステム等によって取得された情報の管理方法がずさんであると主張する。しかし,Nシステム等によって取得,保有,利用された情報の安全管理及び利用状況が適正にされていることは,上記引用の原判決の示すとおりである。確かに通過車両データが流出した事例があったことも原判決の示すとおりであり,そのような事態が生じないように,なお万全を期すことが求められるところであるが,上記事例が生じたことをもって管理方法それ自体に不備があるということはできないし,これを受けて更に管理を徹底する措置が執られたことは,公知の事実である上,控訴人らのデータが上記事例において流出したとは認められないのであるから,控訴人らの権利が侵害されたということはできない

 もっとも,ドイツ憲法裁判決は,そのような公権力の行使は法律の定めに基づくことを要するとしていると理解されるが,我が国においては,警察は,警察法2条1項の規定により,強制力を伴わない限り犯罪捜査に必要な諸活動を行うことが許されていると解されるのであり,上記のような態様で公道上において何人でも確認し得る車両データを収集し,これを利用することは,適法に行い得るというべきである最高裁昭和55年9月22日第三小法廷決定・刑集34巻5号272頁等参照)。

21事件 住基ネット(最一判平成20年3月6日)

(1) 憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。

 そこで,住基ネットが被上告人らの上記の自由を侵害するものであるか否かについて検討するに,住基ネットによって管理,利用等される本人確認情報は,氏名,生年月日,性別及び住所から成る4情報に,住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,変更情報も,転入,転出等の異動事由,異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので,これらはいずれも,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。これらの情報は,住基ネットが導入される以前から,住民票の記載事項として,住民基本台帳を保管する各市町村において管理,利用等されるとともに,法令に基づき必要に応じて他の行政機関等に提供され,その事務処理に利用されてきたものである。そして,住民票コードは,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等を目的として,都道府県知事が無作為に指定した数列の中から市町村長が一を選んで各人に割り当てたものであるから,上記目的に利用される限りにおいては,その秘匿性の程度は本人確認情報と異なるものではない

 また,前記確定事実によれば,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等は,法令等の根拠に基づき,住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。住基ネットシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,住基法は,都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を,指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして,本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない

 なお,原審は,① 行政個人情報保護法によれば,行政機関の裁量により利用目的を変更して個人情報を保有することが許容されているし,行政機関は,法令に定める事務等の遂行に必要な限度で,かつ,相当の理由のあるときは,利用目的以外の目的のために保有個人情報を利用し又は提供することができるから,行政機関が同法の規定に基づき利用目的以外の目的のために保有個人情報を利用し又は提供する場合には,本人確認情報の目的外利用を制限する住基法30条の34に違反することにならないので,同法による目的外利用の制限は実効性がないこと,② 住民が住基カードを用いて行政サービスを受けた場合,行政機関のコンピュータに残った記録を住民票コードで名寄せすることが可能であることなどを根拠として,住基ネットにより,個々の住民の多くのプライバシー情報が住民票コードを付されてデータマッチングされ,本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され,利用される具体的な危険が生じていると判示する。しかし,上記①については,行政個人情報保護法は,行政機関における個人情報一般についてその取扱いに関する基本的事項を定めるものであるのに対し,住基法30条の34等の本人確認情報の保護規定は,個人情報のうち住基ネットにより管理,利用等される本人確認情報につきその保護措置を講ずるために特に設けられた規定であるから,本人確認情報については,住基法中の保護規定が行政個人情報保護法の規定に優先して適用されると解すべきであって,住基法による目的外利用の禁止に実効性がないとの原審の判断は,その前提を誤るものである。また,上記②については,システム上,住基カード内に記録された住民票コード等の本人確認情報が行政サービスを提供した行政機関のコンピュータに残る仕組みになっているというような事情はうかがわれない。上記のとおり,データマッチングは本人確認情報の目的外利用に当たり,それ自体が懲戒処分の対象となるほか,データマッチングを行う目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書等を収集する行為は刑罰の対象となり,さらに,秘密に属する個人情報を保有する行政機関の職員等が,正当な理由なくこれを他の行政機関等に提供してデータマッチングを可能にするような行為も刑罰をもって禁止されていること,現行法上,本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しないことなどにも照らせば,住基ネットの運用によって原審がいうような具体的な危険が生じているということはできない。   (2) そうすると,行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理,利用等する行為は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず,当該個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である。また,以上に述べたところからすれば,住基ネットにより被上告人らの本人確認情報が管理,利用等されることによって,自己のプライバシーに関わる情報の取扱いについて自己決定する権利ないし利益が違法に侵害されたとする被上告人らの主張にも理由がないものというべきである。以上は,前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

防犯カメラとプライバシー権(名古屋高判平成17年3月30日)

 

 しかしながら,憲法基本的人権規定は私人相互の関係を直接規律するものではなく,私的自治に関する一般的制限規定である民法1条,90条や不法行為に関する諸規定等の適用によって間接的に私人間にその趣旨を及ぼすものと解するのが相当であるから,憲法13条による肖像権やプライバシーの保護とコンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画との関係も,上記のような私的自治に関する一般的制限規定の問題として考えるべきである。

 そこで,コンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画の違法性を上記のような私的自治に関する一般的制限規定の問題として考えると,まず,客の側についていえば,コンビニエンスストアー内で客がとる通常の行動は商品を選んで購入することとそれに付随する行動であって,さほど秘密性の高いものとはいえないし,店員が配備され不特定多数の客が出入りするコンビニエンスストアーにおいては個々の客の容貌や行動は既に人目に触れる状態に置かれているのであるから,そのような場所での肖像権やプライバシー権の保護が住居等の個人的領域における肖像権やプライバシー権の保護よりも相対的に薄くなることもやむを得ないことであり,他方,コンビニエンスストアーの側についていえば,コンビニエンスストアーの経営者は前記(原判決「事実及び理由」欄第3の1(2))のような状況の下で,来店した客や従業員等の生命,身体の安全を確保し,また,自らの財産を守らなければならないのであるから,それ相当の措置を講ずる必要があるものというべきであり,このような双方の利益状況に加えて,コンビニエンスストアーへの来店は任意になされるものであって,店内に設置された防犯ビデオカメラによる撮影,録画には強制的な要素が存在しないことも考え併せれば,コンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画の違法性は,前記(原判決11頁24行目から26行目まで)のとおり目的の相当性,必要性,方法の相当性等を考慮して判断するのが相当と解すべきであり,控訴人のいうように,コンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画はプライバシーの権利を侵害するものであって,その違法性が阻却されるか否かは厳密に吟味されなければならないとして,予防目的でのテレビカメラによる録画は特段の事情のない限り許されないと解さなければならない理由はない。

 そして,前記(原判決「事実及び理由」欄第3の1(2)ないし(7))のとおり,本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影,録画には,目的の相当性,必要性,方法の相当性が認められるのであるから,控訴人の前記指摘は採用できない(なお,控訴人の「特別警戒中 ビデオ画像電送システム稼働中」との掲示についての解釈は独自の解釈であって採用できないし,目的外使用をしないという意識も持っていない等の被控訴人の態度は,仮にそのような面があったとしても,それがただちに防犯ビデオカメラの撮影,録画の違法性に結びつくものではない。)」

「(1)前記(原判決3頁16行目から18行目まで)のとおり,控訴人は,撮影後1週間,来店した客の容貌や行動が録画されたビデオテープを保管しているのであるから,その間,ビデオテープに写っている客に対して,その肖像権やプライバシー権が侵害されることのないよう当該ビデオテープを管理する義務を負うものというべきであり,したがって,上記ビデオテープを第三者に提供したときには,そのことによって当該ビデオテープに写っている客に対する上記管理義務違反の不法行為が成立する可能性はある

 ただ,本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影,録画は,本件コンビニ内で発生する可能性のある万引き及び強盗等の犯罪並びに事故に対処する目的で行われるものであって,その目的が相当である以上,店内で発生した万引き,強盗等の犯罪や事故の捜査のために上記保管にかかるビデオテープを警察に提供することは,上記目的に含まれた行為の一環と見ることができ,特段の事情がない限り,当該犯罪を行った者や事故の当事者となった者に対する関係では勿論のこと,当該ビデオテープに写っているその他の客に対する関係でも違法となるものではない。  これに対して,同じく警察に対するビデオテープの提供であっても,本件コンビニ内で発生した万引き,強盗等の犯罪や事故の捜査とは別の犯罪や事故の捜査のためにこれが提供された場合には,もはやその行為を本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影,録画の目的に含まれるものと見ることはできず,当該ビデオテープに写っている客の肖像権やプライバシー権に対する侵害の違法性が問題になってくる。  そして,この場合,上記防犯ビデオカメラの撮影,録画の目的は,それに含まれる行為の適法性は推定させるが,それから外れる行為を違法とするまでの積極的効力を持つものではないというべきであるから,そのビデオテープの提供行為が当該ビデオテープに写っている客の肖像権やプライバシー権を侵害する違法なものとされるかどうかは,これが警察に提供されることになった経緯や当該ビデオテープに録画された客の行動等の具体的事情から個別的に判断されることになる。

(2)そこで,本件について見るに,本件において被控訴人は前記(原判決「事実及び理由」欄第2の2(4))のとおり本件コンビニ内で発生したものではない有印私文書偽造・同行使・旅館業法違反の犯罪捜査のために本件ビデオテープを公安三課に提供しているのであるが,その提供の経緯は前記(原判決「事実及び理由」欄第2の2(4))のとおりであって,捜査機関の適法な任意捜査に対する私人の協力行為として公益目的を有するものであり,他方,本件ビデオテープに録画されているのは前記(原判決「事実及び理由」欄第2の2(3))のとおり控訴人がFAX用紙及び菓子パンを購入している姿にすぎないものであることを考慮すると,被控訴人が本件ビデオテープを公安三課に提供したことに違法性はないというべきである。

百選35事件 国籍法3条1項違憲判決(最大判平成20年6月4日)

 (3) 以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない

  そうすると,本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。

  したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。 

 したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。

自治会費と思想の自由(大阪高判平成19年8月24日)

二 ところで、本件決議に係る増額分の年会費二〇〇〇円は、本件各会への募金及び寄付金に充てるために集金され、集金後その年度内に本件各会に募金及び寄付金として支払われることが予定されていたものである。しかし、募金及び寄付金は、その性格からして、本来これを受け取る団体等やその使途いかんを問わず、すべて任意に行われるべきものであり、何人もこれを強制されるべきものではない。上記一(2)のとおり、本件決議がなされる以前の被控訴人の会員の本件各会に対する募金及び寄付金に対する態度は一様ではなく、本件各会ごとに見ると、集金に協力した世帯は全世帯の半数程度以下であり、しかも本件各会ごとに募金及び寄付金を拠出するかどうか対応を異にする会員もいたことが窺われる。このように、従前募金及び寄付金の集金に協力しない会員も多く、本件各会ごとに態度を異にする会員がいる中で、班長や組長の集金の負担の解消を理由に、これを会費化して一律に協力を求めようとすること自体、被控訴人の団体の性格からして、様々な価値観を有する会員が存在することが予想されるのに、これを無視するものである上、募金及び寄付金の趣旨にも反するものといわざるを得ない。また、少額とはいえ、経済状態によっては、義務的な会費はともかく、募金及び寄付金には一切応じない、応じられない会員がいることも容易に想像することができるところである。学校後援会費については、会員の子弟が通学しているかどうかによって、協力の有無及び程度が当然異なるものと考えられる募金及び寄付金に応じるかどうか、どのような団体等又は使途について応じるかは、各人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるものであり、仮にこれを受ける団体等が公共的なものであっても、これに応じない会員がいることは当然考えられるから、会員の募金及び寄付金に対する態度、決定は十分尊重されなければならない

 したがって、そのような会員の態度、決定を十分尊重せず、募金及び寄付金の集金にあたり、その支払を事実上強制するような場合には、思想、信条の自由の侵害の問題が生じ得るもっとも、思想、信条の自由について規定する憲法一九条は、私人間の問題に当然適用されるものとは解されないが、上記事実上の強制の態様等からして、これが社会的に許容される限度を超えるときには、思想、信条の自由を侵害するものとして、民法九〇条の公序良俗違反としてその効力を否定される場合があり得るというべきである。

 本件決議は、本件各会に対する募金及び寄付金を一括して一律に会費として徴収し、その支払をしようとするものであるから、これが強制を伴うときは、会員に対し、募金及び寄付金に対する任意の意思決定の機会を奪うものとなる。なお、被控訴人は、本件各会に対する募金及び寄付金を会費の一部として集金しようとするものであるが、本件決議に至る経緯からして、これは名目上及び徴収の都合上のことにすぎず、実質は募金及び寄付金を徴収し、これをそのまま本件各会に支出することを予定していたものであって、被控訴人の本件各会に対する募金及び寄付金の支出と会員からの集金とは、その名目にかかわらず、その関係は直接的かつ具体的であるということができる。

 次に、被控訴人は、前記第二の二(2)のとおり、強制加入団体ではないものの対象区域内の全世帯の約八八・六パーセント、九三九世帯が加入する地縁団体であり、その活動は、市等の公共機関からの配布物の配布、災害時等の協力、清掃、防犯、文化等の各種行事、集会所の提供等極めて広範囲に及んでおり、地域住民が日常生活を送る上において欠かせない存在であること、被控訴人が、平成一六年五月ころ、自治会未加入者に対しては、(1)甲南町からの配布物を配布しない、(2)災害、不幸などがあった場合、協力は一切しない、(3)今後新たに設置するごみ集積所やごみステーションを利用することはできないという対応をすることを三役会議で決定していることからすると、会員の脱退の自由は事実上制限されているものといわざるを得ない。

 そして、控訴人において、本件決議に基づき、募金及び寄付金を一律に会費として徴収するときは、これが会員の義務とされていることからして、これを納付しなければ強制的に履行させられたり、不納付を続ければ、被控訴人からの脱退を余儀なくされるおそれがあるというべきである。これに関し、《証拠略》には、会費の不納付者に対しても、脱退を求めず、会員として取り扱っている旨の記載がある。しかし、上記証拠によっても、会費については、不納付扱いではなく保留扱いとしているのであって、いわば徴収の猶予をしているにすぎないから、現在このような扱いがなされているからといって、将来も(裁判終了後も)脱退を余儀なくされるおそれがないとはいえない。  そうすると、本件決議に基づく増額会費名目の募金及び寄付金の徴収は、募金及び寄付金に応じるか否か、どの団体等になすべきか等について、会員の任意の態度、決定を十分尊重すべきであるにもかかわらず、会員の生活上不可欠な存在である地縁団体により、会員の意思、決定とは関係なく一律に、事実上の強制をもってなされるものであり、その強制は社会的に許容される限度を超えるものというべきである。

 したがって、このような内容を有する本件決議は、被控訴人の会員の思想、信条の自由を侵害するものであって、公序良俗に反し無効というべきである。

行政書士会政治献金事件(神戸地裁尼崎支部判平成19年7月17日) 

(2) 次に、原告は、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求の前提となるから本件確認の訴えについて確認の利益があると主張する。本件確認の訴えは、上記(1)及び(2)の決議の無効という過去の法律関係の有効性の確認を求める訴えであるところ、過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否ないし有効性の確認を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される(最高裁判所第一小法廷昭和四七年一一月九日判決・民集二六巻九号一五一三頁参照)。しかし、上記(1)及び(2)の決議の無効を確認する判決が確定しても、本件決議に基づく予算の執行により原告のどのような権利がどのように侵害されたのかが既判力によって確定されるわけではなく、不法行為に基づく損害賠償請求権の存否が、上記(1)及び(2)の決議の効力に関する疑義が前提となってその決議から派生した法律関係につき発生した法律上の紛争ということもできないから、上記(1)及び(2)の決議の無効を確認することが、原告の損害賠償請求権の存否をめぐる現在の法律上の紛争を直接かつ抜本的に解決することにはならない。また、上記(1)及び(2)の決議の違法、無効は原告の損害賠償請求の当否の審理に当たって検討すれば足り、かかる紛争を離れて決議の有効性を別個独立に確認する必要もない。よって、不法行為に基づく損害賠償請求の前提となることをもって、本件確認の訴えに確認の利益があるということはできない。

オ 本件寄付は、形式上、被告がその一般会計から規制緩和対策費、法改正対策費及び職域開発費という支出科目で支出することを決議した上、これらの支出金を県政連に交付したものであるが、実質的には、被告自身も認めるとおり、被告が自身では行えない行政書士の政治的要求を実現するための政治資金規正法上の政治団体に対して金員を寄付するものであり、かかる寄付を受けた県政連が、実際に、日政連の下部組織として、特定の政党が公認する公職候補者の応援活動を行うなど党派性を帯びた活動を含め、広範な政治活動を行っているのであるから、本件寄付は、被告の目的の範囲外の行為であるといわざるを得ない

カ もっとも、かかる被告の目的の範囲外の行為が原告に対する不法行為を構成するか否かは、別途検討を要する。思うに、本件寄付が被告の目的の範囲外の行為であるとしても、本件寄付自体が民法四三条に違反し、無効となるにとどまり、原告の被告に対する一般会費の納付義務が消滅するわけではないのであるから、被告が本件寄付を行っても、原告に何らかの財産的な損害が発生するとは認められない

 したがって、本件寄付が、被告の目的の範囲外の行為であるとしても、そのことから直ちに本件寄付が原告に対する不法行為を構成するということはできない

司法書士会注意勧告事件(大阪地判平成19年1月30日) 

 司法書士会が行うことができる注意勧告の内容は,会員に対して注意を促し,必要な措置を講ずべきことを勧告するというものであり,本件注意勧告の内容も第2の1,(2),クのとおりのものであって,それ自体は,注意と勧告を行ったにとどまり,原告の権利利益に影響を及ぼすものということはできない。

 しかし,前記認定事実によれば,被告がその会員に対して注意勧告を行ったときは,被告の会長は,被告に備える会員名簿に注意又は勧告決定の年月日及び決定の趣旨を登載し(注意勧告運用規則16条1項),被告は,注意勧告をしたことを,日本司法書士会連合会に対して通知する(注意勧告運用規則21条)ものとされているほか,被告の事務所の所在地を管轄する法務局等の長に報告しなければならないとされている(司法書士法施行規則41条)。以上は,注意勧告がされた場合に必然的に措置されるものであり,また,上記通知及び報告の相手方が,前者については司法書士会の上部団体である日本司法書士会連合会であり,後者については司法書士に対する懲戒権を有する大阪法務局長であることからすると,会員が被告から注意勧告を受けるということは,被告の内部における出来事にとどまらず,当該会員の司法書士たる身分及びその業務に関して支障を生じさせるものであるということができる。被告が注意勧告をする場合には,綱紀委員会の調査及び注意勧告小理事会の審査,議決という各手続を経ることとし,調査及び審査を受ける会員に対しては,各手続ごとに弁明の機会を与え,さらに,注意勧告に不服のある会員には,再調査の申立てをすることを認めるのは,注意勧告が上記のような影響を及ぼすものであるから,法律の委任を受けた被告会則並びにその細則である綱紀委員会規則及び注意勧告運用規則(以下,これらを併せて「被告会則等」という。)において注意勧告に関する手続の適正を担保しているものと解される。

 以上によれば,本件注意勧告は,原告に対する事実上の不利益とか,被告の内部的な規律問題とかにとどまるものではなく,原告の一般市民法秩序における権利利益に影響を与えるものであるというべきである。したがって,本件注意勧告の適否は,司法審査の対象となるというべきである。