Pacta Sunt Servanda

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行政法 処分性の判例 その2

6 最高裁判所大法廷昭和59年12月12日 判決  輸入禁制品該当通知処分等取消

 被上告人らは、三号物件に該当する貨物につき輸入が禁止されること自体は、同条一項の規定により一般的に生じている効力によるものであつて、この税関長の通知は、右条項により生じた輸入禁止の一般的効力に対し何ら加えるところはなく、関税法上も輸入申告に対し不許可処分をすべき旨の規定がないから、輸入禁制品に限らず輸入手続一般において税関長は不許可処分をすることはない、と主張する。被上告人らが原審において、右の税関長の通知は何ら輸入の禁止又は不許可の効果を生ずるものではなく、輸入禁制品については、輸入の禁止又は不許可等の行政庁の何らの処分を要しないで、同条一項の実体規定による当然の効果として、当該貨物を適法に輸入することができないという制約が生ずる旨主張したのも同一趣旨であると解される。

 しかしながら、輸入申告にかかる貨物又は輸入される郵便物中の信書以外の貨物が輸入禁制品に該当する場合法律上当然にその輸入が禁止されていることは所論のとおりであるとしても、通関手続の実際において、当該貨物につき輸入禁止という法的効果が肯認される前提として、それが輸入禁制品に該当するとの税関長の認定判断が先行することは自明の理であつて、そこに一般人の判断作用とは異なる行政権の発動が存するのであり、輸入禁制品と認められる貨物につき、税関長がその輸入を許可し得ないことは当然であるとしても、およそ不許可の処分をなし得ないとするのは、関係法規の規定の体裁は別として、理由のないものというほかはない

 進んで、当該貨物が輸入禁制品に該当するか否かの認定判断につき、これを実際的見地からみるのに、例えばあへんその他の麻薬(一号物件)については、その物の形状、性質それ自体から輸入禁制品に該当することが争う余地のないものとして確定され得るのが通常であるのに対し、同条一項三号所定の「公安又は風俗を害すべき」物品に該当するか否かの判断はそれ自体一種の価値判断たるを免れないものであつて、本件で問題とされる「風俗」に限つていつても、「風俗を害すべき」物品がいかなるものであるかは、もとより解釈の余地がないほど明白であるとはいえず、三号物件に該当すると認めるのに相当の理由があるとする税関長の判断も必ずしも常に是認され得るものということはできない。

 通関手続の実際においては、前述のとおり、輸入禁制品のうち、一、二、四号物件については、これに該当する貨物を没収して廃棄し、又はその積みもどしを命じ(同条二項)、三号物件については、これに該当すると認めるのに相当の理由がある旨を通知する(同条三項)のであるが、およそ輸入手続において、貨物の輸入申告に対し許可が与えられない場合にも、不許可処分がされることはない(三号物件につき税関長の通知がされた場合にも、その後改めて不許可処分がされることはない)というのが確立した実務の取扱いであることは、被上告人らの自陳するところであつて、これによると、同法二一条三項の通知は、当該物件につき輸入が許されないとする税関長の意見が初めて公にされるもので、しかも以後不許可処分がされることはなく、その意味において輸入申告に対する行政庁側の最終的な拒否の態度を表明するものとみて妨げないものというべきである。輸入申告及び許可の手続のない郵便物の輸入についても、同項の通知が最終的な拒否の態度の表明に当たることは、何ら異なるところはない。そして、現実に同項の通知がされたときは、郵便物以外の貨物については、輸入申告者において、当該貨物を適法に保税地域から引き取ることができず(関税法七三条一、二項、一〇九条一項参照)、また、郵便物については、名あて人において、郵政官署から配達又は交付を受けることができないことになるのである(同法七六条四項、七〇条三項参照)。

 以上説示したところによれば、かかる通関手続の実際において、前記の税関長の通知は、実質的な拒否処分(不許可処分)として機能しているものということができ、右の通知及び異議の申出に対する決定(関税定率法二一条五項)は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分及び決定に当たると解するのが相当である(ちなみに、昭和五五年法律第七号による関税法等の一部改正により、関税定率法二一条四、五項の規定が削除され、同条三項の通知についての審査請求及び取消しの訴えに関し、明文の規定が関税法九一条、九三条に設けられるに至つた。)。 

 

7 最高裁判所第三小法廷平成23年6月14日判決 行政処分取消等請求事件

 本件契約は,上告人が価格の高低のみを比較することによって本件民間移管に適する手方を選定することができる性質のものではないから,地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないもの」として,随意契約の方法により締結することができるものである。また,紋別市公の施設に係る指定管理者の指定手続に関する条例及び同条例施行規則は,上告人の設置する公の施設に係る地方自治法244条の2第3項所定の指定管理者の指定の手続について定めたものであって(同条例1条参照),本件契約の締結及びその手続につき適用されるものではない。そうすると,本件募集は,法令の定めに基づいてされたものではなく,上告人が本件民間移管に適する事業者を契約の相手方として選考するための手法として行ったものである。

 以上によれば,紋別市長がした本件通知は,上告人が,契約の相手方となる事業者を選考するための手法として法令の定めに基づかずに行った事業者の募集に応募した者に対し,その者を相手方として当該契約を締結しないこととした事実を告知するものにすぎず,公権力の行使に当たる行為としての性質を有するものではないと解するのが相当である。したがって,本件通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである

 

8 最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決 住民票不記載処分取消等請求事件

 上告人子につき住民票の記載をすることを求める上告人父の申出は住民基本台帳法(以下「法」という。)の規定による届出があった場合に市町村(特別区を含む。以下同じ。)の長にこれに対する応答義務が課されている(住民基本台帳法施行令(以下「令」という。)11条参照)のとは異なり,申出に対する応答義務が課されておらず,住民票の記載に係る職権の発動を促す法14条2項所定の申出とみるほかないものである。したがって,本件応答は,法令に根拠のない事実上の応答にすぎず,これにより上告人子又は上告人父の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないと解される

 

9 最高裁判所第二小法廷平成24年2月3日判決 土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件

 都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである

 都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない。 

 以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である