Pacta Sunt Servanda

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衆議院小選挙区選挙の選挙区割り・選挙運動に関する公選法規定等の合憲性(最大判平成19年6月13日)

ウ 区画審設置法3条は,1項において,選挙区の改定案の作成につき,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきことを基準として定めており,投票価値の平等に十分な配慮をしていると認められる。その上で,同条は,2項において1人別枠方式を採用したものであるが,この方式は,過疎地域に対する配慮などから,人口の多寡にかかわらず各都道府県にあらかじめ定数1を配分することによって,相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し,人口の少ない県に居住する国民の意見をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とするものであると解される。前記のとおり,選挙区割りを決定するに当たっては,議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることが,最も重要かつ基本的な基準であるが,国会はそれ以外の諸般の要素をも考慮することができるのであって,都道府県は選挙区割りをするに際して無視することができない基礎的な要素の一つであり,人口密度や地理的状況等のほか,人口の都市集中化及びこれに伴う人口流出地域の過疎化の現象等にどのような配慮をし,選挙区割りや議員定数の配分にこれらをどのように反映させるかという点も,国会において考慮することができる要素というべきである。1人別枠方式を含む同条所定の選挙区割りの基準は,国会が以上のような要素を総合的に考慮して定めたものと評価することができるのであって,これをもって投票価値の平等との関係において国会の裁量の範囲を逸脱するものということはできないから,上記基準が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。このことは,前掲平成11年11月10日各大法廷判決の判示するところであって,これを変更する必要は認められない。

エ 前記事実関係等によれば,本件区割規定は,区画審が平成12年国勢調査の結果に基づき作成した改定案のとおり小選挙区選挙の選挙区割りが改定されたものであるところ,平成12年国勢調査による人口を基にすると,本件区割規定の下における選挙区間の人口の最大較差は1対2.064であり,9選挙区において人口が最も少ない選挙区と比較して人口較差が2倍以上となっていたというのである。区画審設置法3条1項は,区画審が作成する選挙区の改定案について,選挙区間の人口の最大較差が2倍以上とならないようにすることを基本としなければならない旨規定しているが,上記の基準は,選挙区間の人口の最大較差が2倍以上となることを一切許さない趣旨のものではなく,同条2項が定める1人別枠方式による各都道府県への定数の配分を前提とした上で,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に区割りを行い,選挙区間の人口の最大較差ができるだけ2倍未満に収まるように区割りが行われるべきことを定めたものと解される。同条の趣旨は上記のとおりであり,結果的に見ても,平成12年国勢調査による人口を基にした本件区割規定の下での選挙区間の人口の最大較差は1対2.064と1対2を極めてわずかに超えるものにすぎず,最も人口の少ない選挙区と比較した人口較差が2倍以上となった選挙区は9選挙区にとどまるものであったというのであるから,区画審が作成した上記の改定案が直ちに同条所定の基準に違反するものであるということはできない。そして,同条所定の基準自体に憲法に違反するところがないことは前記のとおりであるから,国会が上記の改定案のとおり選挙区割りを改定して本件区割規定を定めたことが投票価値の平等との関係において国会の裁量の範囲を逸脱するものであるということはできない。また,前記事実関係等によれば,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.171であったというのであるから,本件選挙施行時における選挙区間の投票価値の不平等が,一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達し,憲法の投票価値の平等の要求に反する程度に至っていたということもできない

オ そうすると,本件区割規定は,それが定められた当時においても,本件選挙施行時においても,憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。

(略)

ウ 公職選挙法の規定によれば,小選挙区選挙においては,候補者のほかに候補者届出政党にも選挙運動を認めることとされているのであるが,政党その他の政治団体にも選挙運動を認めること自体は,選挙制度を政策本位,政党本位のものとするという国会が正当に考慮することのできる政策的目的ないし理由に合致するものであって,十分合理性を是認し得るものである。もっとも,同法86条1項1号,2号が,候補者届出政党になり得る政党等を国会議員を5人以上有するもの又は直近のいずれかの国政選挙における得票率が2%以上であったものに限定し,このような実績を有しない政党等は候補者届出政党になることができないものとしている結果,選挙運動の上でも,政党等の間に一定の取扱い上の差異が生ずることは否めない。しかしながら,このような候補者届出政党の要件は,国民の政治的意思を集約するための組織を有し,継続的に相当な活動を行い,国民の支持を受けていると認められる政党等が,小選挙区選挙において政策を掲げて争うにふさわしいものであるとの認識の下に,政策本位,政党本位の選挙制度をより実効あらしめるために設けられたと解されるのであり,そのような立法政策を採ることには相応の合理性が認められ,これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない

 そして,候補者と並んで候補者届出政党にも選挙運動を認めることが是認される以上,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に選挙運動の上で差異を生ずることは避け難いところであるから,その差異が合理性を有するとは考えられない程度に達している場合に,初めてそのような差異を設けることが国会の裁量の範囲を逸脱するというべきである。自動車,拡声機,文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告,演説会等についてみられる選挙運動上の差異は,候補者届出政党にも選挙運動を認めたことに伴って不可避的に生ずるということができる程度のものであり,候補者届出政党に所属しない候補者も,自ら自動車,拡声機,文書図画等を用いた選挙運動や新聞広告,演説会等を行うことができるのであって,それ自体が選挙人に政見等を訴えるのに不十分であるとは認められないことにかんがみれば,上記のような選挙運動上の差異を生ずることをもって,国会の裁量の範囲を超え,憲法に違反するとは認め難い。もっとも,公職選挙法150条1項によれば,政見放送については,候補者届出政党にのみ認められているものである。ラジオ放送又はテレビジョン放送を利用しての政見放送は,他の選挙運動の手段と比較して,はるかに多くの有権者に対しその政見を伝達することができるものであり,しかも,その政見放送においては候補者の紹介をすることもできることを考えると,政見放送を候補者届出政党にのみ認めることは,候補者届出政党に所属する候補者とこれに所属しない候補者との間に単なる程度の違いを超える差異をもたらすものといわざるを得ない。しかしながら,同項が小選挙区選挙における政見放送を候補者届出政党にのみ認めることとしたのは,候補者届出政党の選挙運動に関する他の規定と同様に,選挙制度を政策本位,政党本位のものとするという合理性を有する立法目的によるものであり,また,政見放送は選挙運動の一部を成すにすぎず,その余の選挙運動については候補者届出政党に所属しない候補者も十分に行うことができるのであって,その政見等を選挙人に訴えるのに不十分とはいえないこと,小選挙区選挙に立候補したすべての候補者に政見放送の機会を均等に与えることには実際上多くの困難を伴うことは否定し難いことなどにかんがみれば,小選挙区選挙における政見放送を候補者届出政党にのみ認めていることの一事をもって,選挙運動に関する規定における候補者間の差異が合理性を有するとは考えられない程度に達しているとまで断ずることはできず,これをもって国会の合理的裁量の限界を超えているものということはできない

エ したがって,小選挙区選挙の選挙運動に関する公職選挙法の規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するとはいえない。このことは,前掲最高裁平成11年(行ツ)第35号大法廷判決の判示するところであって,これを変更する必要は認められない。