Pacta Sunt Servanda

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精神的障碍をもつ人と投票権(最一判平成18年7月13日)

(2)憲法における選挙権保障の趣旨にかんがみれば,国民の選挙権の行使を制限することは原則として許されず,国には,国民が選挙権を行使することができない場合,そのような制限をすることなしには選挙の公正の確保に留意しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められるときでない限り,国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執るべき責務があるというべきである(上記大法廷判決参照)。このことは,国民が精神的原因によって投票所において選挙権を行使することができない場合についても当てはまる。しかし,精神的原因による投票困難者については,その精神的原因が多種多様であり,しかもその状態は必ずしも固定的ではないし,療育手帳に記載されている総合判定も,身体障害者手帳に記載されている障害の程度や介護保険の被保険者証に記載されている要介護状態区分等とは異なり,投票所に行くことの困難さの程度と直ちに結び付くものではない。したがって,精神的原因による投票困難者は,身体に障害がある者のように,既存の公的な制度によって投票所に行くことの困難性に結び付くような判定を受けているものではないのである。しかも,前記事実関係等によれば,身体に障害がある者の選挙権の行使については長期にわたって国会で議論が続けられてきたが,精神的原因による投票困難者の選挙権の行使については,本件各選挙までにおいて,国会でほとんど議論されたことはなく,その立法措置を求める地方公共団体の議会等の意見書も,本件訴訟の第1審判決後に初めて国会に提出されたというのであるから,少なくとも本件各選挙以前に,精神的原因による投票困難者に係る投票制度の拡充が国会で立法課題として取り上げられる契機があったとは認められない

(3)以上によれば,選挙権が議会制民主主義の根幹を成すものであること等にかんがみ(上記大法廷判決参照),精神的原因による投票困難者の選挙権行使の機会を確保するための立法措置については,今後国会において十分な検討がされるべきものであるが,本件立法不作為について,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などに当たるということはできないから,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受けるものではないというべきである。