広島地判平成20年12月25日
(2)ところで,生活保護を受ける権利は,被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に付与された一身専属的な権利であって,相続の対象になり得ない。また,仮に被保護者の生存中に本来支払うべき給付が支払われていないとしても,当該給付を求める権利は,当該被保護者の最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであって,法の予定する目的以外に流用することを許さないものであるから,当該被保護者の死亡によって当然消滅し,相続の対象となり得ないと解すべきである。(最高裁大法廷昭和42年5月24日判決・民集21巻5号1043頁参照)
法8条2項は,厚生労働大臣が保護基準の制定に当たって考慮すべき事情を定めた上,保護基準が,最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものであることを要する旨規定するが,同規定が定めるところは抽象的で相対的なものであり,その具体的内容は,文化の発達,国民経済の進展に伴って向上するのはもとより,多数の不確定的要素を総合勘案してはじめて決定できるものであり,このような点にかんがみると,保護基準の制定は,その改定も含めて,厚生労働大臣の合目的的な裁量に委ねられているというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第14号昭和42年5月24日大法廷判決参照)。
しかし,一般に,保護基準の改定は,その新規の制定とは異なり,既に制定されていた保護基準を変更するものであり,そもそも改定前の保護基準は,厚生労働大臣が法8条2項所定の要件を充足する基準として制定したものである。しかも,後記認定のとおり,本件保護基準改定前の老齢加算,母子加算及び多人数世帯扶助基準額に関する保護基準は,いずれも長年にわたり実施されてきたもので,いわば,厚生労働大臣が法8条2項所定の要件を充足する基準であることを長年にわたり自認してきたものである。加えて,本件保護基準改定は,このような保護基準を保護受給者に不利益に変更するものである。上記の各点及び保護基準の改定が厚生労働大臣の裁量に委ねられている趣旨にかんがみれば,本件保護基準改定についての厚生労働大臣の裁量の幅は,その新規の制定におけるそれよりも狭く,本件保護基準改定における厚生労働大臣の判断過程に看過し難い事実の誤認や事実の評価の誤り等の不合理な点があり,上記判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,厚生労働大臣の上記判断に不合理な点があり,同判断に基づく本件保護基準改定は裁量権を濫用又は逸脱したものとして,違法であり,これに基づく本件各決定もまた違法であると解すべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第133号平成4年10月29日第一小法廷判決参照)。そして,上記の不合理な点があったことを基礎付ける事実は,厚生労働大臣の裁量権の濫用又は逸脱のあったことの根拠事実であるから,その主張,立証責任は原告らが負うこととなる。
以上によれば,主文第1項の訴えは当然に終了したものと宣し,同2項の請求に基づく訴えは,いずれも不適法であるから,これらを却下することとし,原告ら(主文第1項の原告らを除く。)及び承継参加人のその余の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。