Pacta Sunt Servanda

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東京地判平成20年6月26日

1 法59条1項が定める「配偶者」の概念は,遺族厚生年金が被保険者等の死亡等の場合にその家族の生活を保障する目的で支給される公的給付であることを勘案すると,被保険者等の生活の実態に即し,現実的な観点から理解すべきであって,戸籍上届出のある配偶者であっても,その婚姻関係が実体を失って形骸化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき,すなわち,事実上の離婚状態にある場合には,もはや遺族厚生年金を受けることができる「配偶者」に該当しないものというべきである最高裁昭和58年4月14日第一小法廷判決・民集37巻3号270頁参照)。

 しかしながら,他方で,一夫一婦制を基本とし,原則として適式の届出のある婚姻関係のみを正式な法律上の婚姻関係と認める現行法体系のもとにおいては,仮に,被保険者等に,法律上の配偶者のほかに,いわゆる重婚的内縁関係にある者が存在し,その者と被保険者等との関係が密接であるために,法律上の配偶者との関係が疎遠になっている場合であっても,それが事実上の離婚状態に至っていない場合には,当該法律上の配偶者を法59条1項の「配偶者」として遺族厚生年金の支給を認めるのが相当であり,他方,事実上の離婚状態にない法律上の配偶者が存在する状況下での内縁関係なるものは,法3条2項にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にある」関係と評価することはできず,そのような関係にあるに過ぎない者は,遺族厚生年金の支給を受けるべき「配偶者」に該当しないものというべきである。

 そして,「事実上の離婚状態」にあるか否かは,婚姻当事者の別居の有無,別居の経緯,別居期間,婚姻関係を維持ないし修復するための努力の有無,別居後における経済的依存の状況,別居後における婚姻当事者間の音信・訪問の状況,重婚的内縁関係の固定性等を総合して判断すべきである。

 

(6)以上のとおりであって,Aと原告の婚姻関係は,事実上の離婚状態に至っていたと評価することはできず,原告がAの「配偶者」(法59条1項)であるというべきであり,そうすると,参加人は,同条項所定の「配偶者」に該当するとは認められないから,参加人を同条項所定の「配偶者」であるとしてAの遺族厚生年金の受給権を認めた本件裁決は,その判断を誤ったもので違法であり,取り消されるべきである。