Pacta Sunt Servanda

「合意は拘束する」自分自身の学修便宜のため、備忘録ないし知識まとめのブログです。 ブログの性質上、リプライは御期待に沿えないことがあります。記事内容の学術的な正確性は担保致しかねます。 判決文は裁判所ホームページから引用してますが、記事の中ではその旨の言及は割愛いたします。

防犯カメラとプライバシー権(名古屋高判平成17年3月30日)

 

 しかしながら,憲法基本的人権規定は私人相互の関係を直接規律するものではなく,私的自治に関する一般的制限規定である民法1条,90条や不法行為に関する諸規定等の適用によって間接的に私人間にその趣旨を及ぼすものと解するのが相当であるから,憲法13条による肖像権やプライバシーの保護とコンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画との関係も,上記のような私的自治に関する一般的制限規定の問題として考えるべきである。

 そこで,コンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画の違法性を上記のような私的自治に関する一般的制限規定の問題として考えると,まず,客の側についていえば,コンビニエンスストアー内で客がとる通常の行動は商品を選んで購入することとそれに付随する行動であって,さほど秘密性の高いものとはいえないし,店員が配備され不特定多数の客が出入りするコンビニエンスストアーにおいては個々の客の容貌や行動は既に人目に触れる状態に置かれているのであるから,そのような場所での肖像権やプライバシー権の保護が住居等の個人的領域における肖像権やプライバシー権の保護よりも相対的に薄くなることもやむを得ないことであり,他方,コンビニエンスストアーの側についていえば,コンビニエンスストアーの経営者は前記(原判決「事実及び理由」欄第3の1(2))のような状況の下で,来店した客や従業員等の生命,身体の安全を確保し,また,自らの財産を守らなければならないのであるから,それ相当の措置を講ずる必要があるものというべきであり,このような双方の利益状況に加えて,コンビニエンスストアーへの来店は任意になされるものであって,店内に設置された防犯ビデオカメラによる撮影,録画には強制的な要素が存在しないことも考え併せれば,コンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画の違法性は,前記(原判決11頁24行目から26行目まで)のとおり目的の相当性,必要性,方法の相当性等を考慮して判断するのが相当と解すべきであり,控訴人のいうように,コンビニエンスストアーにおける防犯ビデオカメラの撮影,録画はプライバシーの権利を侵害するものであって,その違法性が阻却されるか否かは厳密に吟味されなければならないとして,予防目的でのテレビカメラによる録画は特段の事情のない限り許されないと解さなければならない理由はない。

 そして,前記(原判決「事実及び理由」欄第3の1(2)ないし(7))のとおり,本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影,録画には,目的の相当性,必要性,方法の相当性が認められるのであるから,控訴人の前記指摘は採用できない(なお,控訴人の「特別警戒中 ビデオ画像電送システム稼働中」との掲示についての解釈は独自の解釈であって採用できないし,目的外使用をしないという意識も持っていない等の被控訴人の態度は,仮にそのような面があったとしても,それがただちに防犯ビデオカメラの撮影,録画の違法性に結びつくものではない。)」

「(1)前記(原判決3頁16行目から18行目まで)のとおり,控訴人は,撮影後1週間,来店した客の容貌や行動が録画されたビデオテープを保管しているのであるから,その間,ビデオテープに写っている客に対して,その肖像権やプライバシー権が侵害されることのないよう当該ビデオテープを管理する義務を負うものというべきであり,したがって,上記ビデオテープを第三者に提供したときには,そのことによって当該ビデオテープに写っている客に対する上記管理義務違反の不法行為が成立する可能性はある

 ただ,本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影,録画は,本件コンビニ内で発生する可能性のある万引き及び強盗等の犯罪並びに事故に対処する目的で行われるものであって,その目的が相当である以上,店内で発生した万引き,強盗等の犯罪や事故の捜査のために上記保管にかかるビデオテープを警察に提供することは,上記目的に含まれた行為の一環と見ることができ,特段の事情がない限り,当該犯罪を行った者や事故の当事者となった者に対する関係では勿論のこと,当該ビデオテープに写っているその他の客に対する関係でも違法となるものではない。  これに対して,同じく警察に対するビデオテープの提供であっても,本件コンビニ内で発生した万引き,強盗等の犯罪や事故の捜査とは別の犯罪や事故の捜査のためにこれが提供された場合には,もはやその行為を本件コンビニにおける防犯ビデオカメラによる店内の撮影,録画の目的に含まれるものと見ることはできず,当該ビデオテープに写っている客の肖像権やプライバシー権に対する侵害の違法性が問題になってくる。  そして,この場合,上記防犯ビデオカメラの撮影,録画の目的は,それに含まれる行為の適法性は推定させるが,それから外れる行為を違法とするまでの積極的効力を持つものではないというべきであるから,そのビデオテープの提供行為が当該ビデオテープに写っている客の肖像権やプライバシー権を侵害する違法なものとされるかどうかは,これが警察に提供されることになった経緯や当該ビデオテープに録画された客の行動等の具体的事情から個別的に判断されることになる。

(2)そこで,本件について見るに,本件において被控訴人は前記(原判決「事実及び理由」欄第2の2(4))のとおり本件コンビニ内で発生したものではない有印私文書偽造・同行使・旅館業法違反の犯罪捜査のために本件ビデオテープを公安三課に提供しているのであるが,その提供の経緯は前記(原判決「事実及び理由」欄第2の2(4))のとおりであって,捜査機関の適法な任意捜査に対する私人の協力行為として公益目的を有するものであり,他方,本件ビデオテープに録画されているのは前記(原判決「事実及び理由」欄第2の2(3))のとおり控訴人がFAX用紙及び菓子パンを購入している姿にすぎないものであることを考慮すると,被控訴人が本件ビデオテープを公安三課に提供したことに違法性はないというべきである。