Pacta Sunt Servanda

「合意は拘束する」自分自身の学修便宜のため、備忘録ないし知識まとめのブログです。 ブログの性質上、リプライは御期待に沿えないことがあります。記事内容の学術的な正確性は担保致しかねます。 判決文は裁判所ホームページから引用してますが、記事の中ではその旨の言及は割愛いたします。

百選148事件 岩教組学テ事件(最大判昭和51年5月21日)

 右の次第であるから、地公法三七条一項前段において地方公務員の争議行為等を禁止し、かつ、同項後段が何人を問わずそれらの行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為をすることを禁止したとしても、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためのやむをえない措置として、それ自体としては憲法二八条に違反するものではないといわなければならない。

 原判決は、地公法の右規定が同法三七条一項の争議行為の遂行それ自体を処罰の対象とせず、その共謀、そそのかし、あおり等の行為のみを処罰すべきものとしているのは、憲法上労働基本権に対して刑罰の制裁を伴う制約を課することは原則として許されないことを考慮した結果とみるべきものであるとの見地から、右の共謀等の行為の意義を限定的に解釈すべきものと論じているのであるが、しかし、公務員の争議行為が国民全体又は地方住民全体の共同利益のために制約されるのは、それが業務の正常な運営を阻害する集団的かつ組織的な労務不提供等の行為として反公共性をもつからであるところ、このような集団的かつ組織的な行為としての争議行為を成り立たせるものは、まさにその行為の遂行を共謀したり、そそのかしたり、あおつたりする行為であつて、これら共謀等の行為は、争議行為の原動力をなすもの、換言すれば、全体としての争議行為の中でもそれなくしては右の争議行為が成立しえないという意味においていわばその中核的地位を占めるものであり、このことは、争議行為がその都度集団行為として組織され、遂行される場合ばかりでなく、すでに組織体として存在する労働組合の内部においてあらかじめ定められた団体意思決定の過程を経て決定され、遂行される場合においても異なるところはないのである、それ故、法が、共謀、そそのかし、あおり等の行為のもつ右のような性格に着目してこれを社会的に責任の重いものと評価し、当該組合に所属する者であると否とを問わず、このような行為をした者に対して違法な争議行為の防止のために特に処罰の必要性を認め、罰則を設けることには十分合理性があり、これをもつて憲法一八条、二八条に違反するものとすることができないことは、前記大法廷判決の判示するとおりであるといわなければならない。

 したがつて、地公法六一条四号の規定の解釈につき、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して、前者のみが同条同号にいう争議行為にあたるものとし、更にまた、右争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる等の行為についても、いわゆる争議行為に通常随伴する行為は単なる争議参加行為と同じく可罰性を有しないものとして右規定の適用外に置かれるべきであると解しなければならない理由はなく、このような解釈を是認することはできないのである。いわゆる都教組事件についての当裁判所の判決(昭和四一年(あ)第四〇一号同四四年四月二日大法廷判決・刑集二三巻五号三〇五頁)は、上記判示と抵触する限度において、変更すべきものである。そうすると、原判決の上記見解は、憲法一八条、二八条及地公法六一条四号の解釈を誤つたものといわなければならない。

 しかしながら、被告人Hらの前記所為は、それが行われた時機、場所、態様等諸般の状況に照らし、V町教育委員会に対する学力調査実施についての団体交渉とみるべきではなく、右実施を阻止するための行為として、争議行為の一種であるピケツテイングとみるべきものと考えられるところ、地方公務員については地公法三七条一項により争議行為が禁止され、かつ、同法六一条四号によりその遂行の共謀、そそのかし、あおり等の行為につき刑事上の制裁が定められており、これらの規定がいずれも憲法に違反するものではないと解されることは、上に述べたとおりであるから、被告人Hらの前記所為が、憲法二八条の争議権の正当な行使として違法性が阻却される理由はない。のみならず、前記のように、本件B教組の学力調査実施反対の行動は、政治的目的ないしは市町村教委の管理運営事項についての要求貫徹のためのものである点において、憲法二八条の保障する団体行動権の範囲に属するものではないと考えられることに加えて、原判決の認定したところによつても、被告人Hらは、本件学力調査実施の当日、テスト立会人である大槌町教育委員会教育長及びテスト補充員の同町役場吏員ら一四名の一行がその職務遂行のためV中学校に赴くのを阻止すべく、同校校舎に通ずる道路のうちの狭隘な橋上部分(幅員四・三メートル、長さ四メートル)を扼して、右の一行を待ち受け、一行が同所に差しかかるや、被告人Hを含む約五〇名の者がその前面に集合し、人垣をつくつて進路を遮断し、この人垣を背景として調査実施の中止を要求し、そのためやむをえずいつたん通行を中止した上記テスト立会人らが改めて通行を試みようとすると、再び前同様の行動に出で、このようにしてテスト開始時刻前の午前八時ころから終了予定時刻に近い午後二時ころまでの約六時間の長きにわたり、前後約五回、一回につき約一〇分ずつ断続的に執拗に右行為を反復し、結局同人らをして右中学校に赴くことを断念するに至らしめたことが認められるのであるから、その間暴力等の有形力の行使がなかつたとはいえ、その手段、態様において道路上における正当なピケツテイングとして是認しうる程度を超えるものがあつたといわざるをえないことを考えると、被告人Hらの前記所為に正当な団体行動権の行使として刑法上の違法性を阻却すべき事由があるとすることはできない。また、右所為を団体行動権の行使の観点からでなく、憲法二一条の意見の表明の観点からみても、前記のようなその手段、態様に照らすときは、同条の保障する意見表明活動として正当化される限度を超えているといわざるをえないのである。