Pacta Sunt Servanda

「合意は拘束する」自分自身の学修便宜のため、備忘録ないし知識まとめのブログです。 ブログの性質上、リプライは御期待に沿えないことがあります。記事内容の学術的な正確性は担保致しかねます。 判決文は裁判所ホームページから引用してますが、記事の中ではその旨の言及は割愛いたします。

百選62事件 駅構内でのビラ配布と表現の自由(最三判昭和59年12月18日)

 所論は、憲法二一条一項違反をいうが、憲法二一条一項は、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであつて、たとえ思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは許されないといわなければならないから、原判示井の頭線吉祥寺駅構内において、他の数名と共に、同駅係員の許諾を受けないで乗降客らに対しビラ多数枚を配布して演説等を繰り返したうえ、同駅の管理者からの退去要求を無視して約二〇分間にわたり同駅構内に滞留した被告人四名の本件各所為につき、鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法二一条一項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)第一三〇八号同二四年五月一八日判決・刑集三巻六号八三九頁、昭和二四年(れ)第二五九一号同二五年九月二七日判決・刑集四巻九号一七九九頁、昭和四二年(あ)第一六二六号同四五年六月一七日判決・刑集二四巻六号二八〇頁)の趣旨に徴し明らかであつて、所論は理由がない。

 同第二について

 所論は、判例違反をいうが、所論引用の判例は、鉄道地内への侵入が問題となつている事案であつて、本件とは事案を異にし適切でないから、適法な上告理由にあたらない。

 なお、鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいい刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいうと解すべきところ、原判決及びその是認する第一審判決の認定するところによれば、被告人四名の本件各所為が鉄道営業法違反及び不退去の各罪に問われた原判示井の頭線吉祥寺駅南口一階階段付近は、構造上同駅駅舎の一部で、井の頭線又は国鉄中央線の電車を利用する乗降客のための通路として使用されており、また、同駅の財産管理権を有する同駅駅長がその管理権の作用として、同駅構内への出入りを制限し若しくは禁止する権限を行使しているのであつて、現に同駅南口一階階段下の支柱二本には「駅長の許可なく駅用地内にて物品の販売、配布、宣伝、演説等の行為を目的として立入る事を禁止致します京王帝都吉祥寺駅長」などと記載した掲示板三枚が取り付けられているうえ、同駅南口一階の同駅敷地部分とこれに接する公道との境界付近に設置されたシヤツターは同駅業務の終了後閉鎖されるというのであるから、同駅南口一階階段付近が鉄道営業法三五条にいう「鉄道地」にあたるとともに、刑法一三〇条にいう「人ノ看守スル建造物」にあたることは明らかであつて、たとえ同駅の営業時間中は右階段付近が一般公衆に開放され事実上人の出入りが自由であるとしても、同駅長の看守内にないとすることはできない。したがつて、これと同旨の原判断は正当として是認することができる。