Pacta Sunt Servanda

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百選31事件 府中青年の家事件(東京高判平成9年9月16日)

Ⅳ ところで、控訴人は、何が青少年の健全な育成にそうものであるかは、教育的配慮に基づく高度の専門的・技術的判断に服するものであるから、都教育委員会には広範な裁量権が認められるべきであり、この限界を超えない限り、違法とはいえないと主張するが、教育施設であるからといって、直ちに他の公共的施設の利用に比べて施設管理者に大幅な裁量権が与えられるとは直ちにいえないのであって、各公共的施設の設立趣旨、目的、運用の実情等を勘案して具体的に地方自治法二四四条二項に定める正当な理由があるかどうか判断すべきものである
そして、前記認定事実によれば、青年の家は、宿泊機能と活動機能が一体となった施設であり、青年たちが共同宿泊活動を通して成長する場として設置されたものであるが、その使用方法は、青年の家が予め決めている標準生活時程に合わせて利用者が自主的に決めることになっており、その生活も各グループの自主的な運営に任され、青年の家職員の指導・助言も現在は利用団体の主体性に任せた上での間接的な指導・助言となっている。
このように青年の家の教育施設としての特色といっても、現在は、職員が青年の健全育成のため利用者に積極的に働きかけるというよりも、青少年の共同宿泊活動を通した自主的活動に適した施設を提供するという面が強いのであり、通常の公共的施設とは、利用者の対象が青少年であるという点が異なるとはいえ、できる限り広範にその利用を許すべきであるという点において、共通しているというべきであって、その利用において、一部の利用者の利用権が著しく制限されてもやむを得ないということはいえないと解するのが相当である。
Ⅵ 以上のとおり、教育委員会が、青年の家利用の承認不承認にあたって男女別室宿泊の原則を考慮することは相当であるとしても、右は、異性愛者を前提とする社会的慣習であり、同性愛者の使用申込に対しては、同性愛者の特殊性、すなわち右原則をそのまま適用した場合の重大な不利益に十分配慮すべきであるのに、一般的に性的行為に及ぶ可能性があることのみを重視して、同性愛者の宿泊利用を一切拒否したものであって、その際には、一定の条件を付するなどして、より制限的でない方法により、同性愛者の利用権との調整を図ろうと検討した形跡も窺えないのである。
したがって、教育委員会の本件不承認処分は、青年の家が青少年の教育施設であることを考慮しても、同性愛者の利用権を不当に制限し、結果的、実質的に不当な差別的取扱いをしたものであり、施設利用の承認不承認を判断する際に、その裁量権の範囲を逸脱したものであって、地方自治法二四四条二項、都青年の家条例八条の解釈適用を誤った違法なものというべきである。