Pacta Sunt Servanda

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百選30事件関連 6か月の待婚期間(最大判平成27年12月16日)

1 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。そして,本件規定は,女性についてのみ前婚の解消又は取消しの日から6箇月の再婚禁止期間を定めており,これによって,再婚をする際の要件に関し男性と女性とを区別しているから,このような区別をすることが事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものと認められない場合には,本件規定は憲法14条1項に違反することになると解するのが相当である。
 ところで,婚姻及び家族に関する事項は,国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ,それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきものである。したがって,その内容の詳細については,憲法が一義的に定めるのではなく,法律によってこれを具体化することがふさわしいものと考えられる。憲法24条2項は,このような観点から,婚姻及び家族に関する事項について,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画したものといえる。また,同条1項は,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。」と規定しており,婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。婚姻は,これにより,配偶者の相続権(民法890条)や夫婦間の子が嫡出子となること(同法772条1項等)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされているほか,近年家族等に関する国民の意識の多様化が指摘されつつも,国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していると考えられることをも併せ考慮すると,上記のような婚姻をするについての自由は,憲法24条1項の規定の趣旨に照らし,十分尊重に値するものと解することができる。
 そうすると,婚姻制度に関わる立法として,婚姻に対する直接的な制約を課すことが内容となっている本件規定については,その合理的な根拠の有無について以上のような事柄の性質を十分考慮に入れた上で検討をすることが必要である。
 そこで,本件においては,上記の考え方に基づき,本件規定が再婚をする際の要件に関し男女の区別をしていることにつき,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当である。以下,このような観点から検討する。
2 本件規定の立法目的について
(1)昭和22年法律第222号による民法の一部改正(以下「昭和22年民法改正」という。)により,旧民法(昭和22年民法改正前の明治31年法律第9号をいう。以下同じ。)における婚姻及び家族に関する規定は,憲法24条2項で婚姻及び家族に関する事項について法律が個人の尊厳及び両性の本質的平等に立脚して制定されるべきことが示されたことに伴って大幅に変更され,憲法の趣旨に沿わない「家」制度が廃止されるとともに,上記の立法上の指針に沿うように,妻の無能力の規定の廃止など夫婦の平等を図り,父母が対等な立場から共同で親権を行使することを認めるなどの内容に改められた。
 その中で,女性についてのみ再婚禁止期間を定めた旧民法767条1項の「女ハ前婚ノ解消又ハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ経過シタル後ニ非サレハ再婚ヲ為スコトヲ得ス」との規定及び同条2項の「女カ前婚ノ解消又ハ取消ノ前ヨリ懐胎シタル場合ニ於テハ其分娩ノ日ヨリ前項ノ規定ヲ適用セス」との規定は,父性の推定に関する旧民法820条1項の「妻カ婚姻中ニ懐胎シタル子ハ夫ノ子ト推定ス」との規定及び同条2項の「婚姻成立ノ日ヨリ二百日後又ハ婚姻ノ解消若クハ取消ノ日ヨリ三百日内ニ生レタル子ハ婚姻中ニ懐胎シタルモノト推定ス」との規定と共に,現行の民法にそのまま引き継がれた。
(2)現行の民法は,嫡出親子関係について,妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し(民法772条1項),夫において子が嫡出であることを否認するためには嫡出否認の訴えによらなければならず(同法775条),この訴えは夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(同法777条)と規定して,父性の推定の仕組みを設けており,これによって法律上の父子関係を早期に定めることが可能となっている。しかるところ,上記の仕組みの下において,女性が前婚の解消等の日から間もなく再婚をし,子を出産した場合においては,その子の父が前夫であるか後夫であるかが直ちに定まらない事態が生じ得るのであって,そのために父子関係をめぐる紛争が生ずるとすれば,そのことが子の利益に反するものであることはいうまでもない
 民法733条2項は,女性が前婚の解消等の前から懐胎していた場合には,その出産の日から本件規定の適用がない旨を規定して,再婚後に前夫の子との推定が働く子が生まれない場合を再婚禁止の除外事由として定めており,また,同法773条は,本件規定に違反して再婚をした女性が出産した場合において,同法772条の父性の推定の規定によりその子の父を定めることができないときは裁判所がこれを定めることを規定して,父性の推定が重複した場合の父子関係確定のための手続を設けている。これらの民法の規定は,本件規定が父性の推定の重複を避けるために規定されたものであることを前提にしたものと解される。
(3)以上のような立法の経緯及び嫡出親子関係等に関する民法の規定中における本件規定の位置付けからすると,本件規定の立法目的は,女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相当であり(最高裁平成4年(オ)第255号同7年12月5日第三小法廷判決・裁判集民事177号243頁(以下「平成7年判決」という。)参照),父子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると,このような立法目的には合理性を認めることができる。
(4)これに対し,仮に父性の推定が重複しても,父を定めることを目的とする訴え(民法773条)の適用対象を広げることにより,子の父を確定することは容易にできるから,必ずしも女性に対する再婚の禁止によって父性の推定の重複を回避する必要性はないという指摘があるところである。
 確かに,近年の医療や科学技術の発達により,DNA検査技術が進歩し,安価に,身体に対する侵襲を伴うこともなく,極めて高い確率で生物学上の親子関係を肯定し,又は否定することができるようになったことは公知の事実である。
 しかし,そのように父子関係の確定を科学的な判定に委ねることとする場合には,父性の推定が重複する期間内に生まれた子は,一定の裁判手続等を経るまで法律上の父が未定の子として取り扱わざるを得ず,その手続を経なければ法律上の父を確定できない状態に置かれることになる。生まれてくる子にとって,法律上の父を確定できない状態が一定期間継続することにより種々の影響が生じ得ることを考慮すれば,子の利益の観点から,上記のような法律上の父を確定するための裁判手続等を経るまでもなく,そもそも父性の推定が重複することを回避するための制度を維持することに合理性が認められるというべきである。
3 そうすると,次に,女性についてのみ6箇月の再婚禁止期間を設けている本件規定が立法目的との関連において上記の趣旨にかなう合理性を有すると評価できるものであるか否かが問題となる。以下,この点につき検討する。
(1)上記のとおり,本件規定の立法目的は,父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されるところ,民法772条2項は,「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定して,出産の時期から逆算して懐胎の時期を推定し,その結果婚姻中に懐胎したものと推定される子について,同条1項が「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」と規定している。そうすると,女性の再婚後に生まれる子については,計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって,父性の推定の重複が回避されることになる。夫婦間の子が嫡出子となることは婚姻による重要な効果であるところ,嫡出子について出産の時期を起点とする明確で画一的な基準から父性を推定し,父子関係を早期に定めて子の身分関係の法的安定を図る仕組みが設けられた趣旨に鑑みれば,父性の推定の重複を避けるため上記の100日について一律に女性の再婚を制約することは,婚姻及び家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものではなく,上記立法目的との関連において合理性を有するものということができる
 よって,本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は,憲法14条1項にも,憲法24条2項にも違反するものではない。
(2)これに対し,本件規定のうち100日超過部分については,民法772条の定める父性の推定の重複を回避するために必要な期間ということはできない
 旧民法767条1項において再婚禁止期間が6箇月と定められたことの根拠について,旧民法起草時の立案担当者の説明等からすると,その当時は,専門家でも懐胎後6箇月程度経たないと懐胎の有無を確定することが困難であり,父子関係を確定するための医療や科学技術も未発達であった状況の下において,再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるという観点や,再婚後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすことによって,父性の判定を誤り血統に混乱が生ずることを避けるという観点から,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けようとしたものであったことがうかがわれる。また,諸外国の法律において10箇月の再婚禁止期間を定める例がみられたという事情も影響している可能性がある。上記のような旧民法起草時における諸事情に鑑みると,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けることが父子関係をめぐる紛争を未然に防止することにつながるという考え方にも理解し得る面があり,このような考え方に基づき再婚禁止期間を6箇月と定めたことが不合理であったとはいい難い。このことは,再婚禁止期間の規定が旧民法から現行の民法に引き継がれた後においても同様であり,その当時においては,国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものであったとまでいうことはできない。
 しかし,その後,医療や科学技術が発達した今日においては,上記のような各観点から,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けることを正当化することは困難になったといわざるを得ない。
 加えて,昭和22年民法改正以降,我が国においては,社会状況及び経済状況の変化に伴い婚姻及び家族の実態が変化し,特に平成期に入った後においては,晩婚化が進む一方で,離婚件数及び再婚件数が増加するなど,再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請が高まっている事情も認めることができる。また,かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が徐々にこれを廃止する立法をする傾向にあり,ドイツにおいては1998年(平成10年)施行の「親子法改革法」により,フランスにおいては2005年(平成17年)施行の「離婚に関する2004年5月26日の法律」により,いずれも再婚禁止期間の制度を廃止するに至っており,世界的には再婚禁止期間を設けない国が多くなっていることも公知の事実である。それぞれの国において婚姻の解消や父子関係の確定等に係る制度が異なるものである以上,その一部である再婚禁止期間に係る諸外国の立法の動向は,我が国における再婚禁止期間の制度の評価に直ちに影響を及ぼすものとはいえないが,再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請が高まっていることを示す事情の一つとなり得るものである。
 そして,上記のとおり,婚姻をするについての自由が憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重されるべきものであることや妻が婚姻前から懐胎していた子を産むことは再婚の場合に限られないことをも考慮すれば,再婚の場合に限って,前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるという観点や,婚姻後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすことによって,父性の判定を誤り血統に混乱が生ずることを避けるという観点から,厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間を超えて婚姻を禁止する期間を設けることを正当化することは困難である。他にこれを正当化し得る根拠を見いだすこともできないことからすれば,本件規定のうち100日超過部分は合理性を欠いた過剰な制約を課すものとなっているというべきである。
 以上を総合すると,本件規定のうち100日超過部分は,遅くとも上告人が前婚を解消した日から100日を経過した時点までには,婚姻及び家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものとして,その立法目的との関連において合理性を欠くものになっていたと解される。
(3)以上の次第で,本件規定のうち100日超過部分が憲法24条2項にいう両性の本質的平等に立脚したものでなくなっていたことも明らかであり,上記当時において,同部分は,憲法14条1項に違反するとともに,憲法24条2項にも違反するに至っていたというべきである。
第3 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について
1 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
 もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。
2 そこで,本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かについて検討する。
(1)本件規定は,前記のとおり,昭和22年民法改正当時においては100日超過部分を含め一定の合理性を有していたと考えられるものであるが,その後の我が国における医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等に伴い,再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるという観点や,父性の判定に誤りが生ずる事態を減らすという観点からは,本件規定のうち100日超過部分についてその合理性を説明することが困難になったものということができる。
(2)平成7年には,当裁判所第三小法廷が,再婚禁止期間を廃止し又は短縮しない国会の立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるかが争われた事案において,国会が民法733条を改廃しなかったことにつき直ちにその立法不作為が違法となる例外的な場合に当たると解する余地のないことは明らかであるとの判断を示していた(平成7年判決)。これを受けた国会議員としては,平成7年判決が同条を違憲とは判示していないことから,本件規定を改廃するか否かについては,平成7年の時点においても,基本的に立法政策に委ねるのが相当であるとする司法判断が示されたと受け止めたとしてもやむを得ないということができる。
 また、平成6年に法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして法務省民事局参事官室により公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」においては,再婚禁止期間を100日に短縮するという本件規定の改正案が示されていたが,同改正案は,現行の嫡出推定の制度の範囲内で禁止期間の短縮を図るもの等の説明が付され,100日超過部分が違憲であることを前提とした議論がされた結果作成されたものとはうかがわれない。
(3)婚姻及び家族に関する事項については,その具体的な制度の構築が第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられる事柄であることに照らせば,平成7年判決がされた後も,本件規定のうち100日超過部分については違憲の問題が生ずるとの司法判断がされてこなかった状況の下において,我が国における医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等に伴い,平成20年当時において,本件規定のうち100日超過部分が憲法14条1項及び24条2項に違反するものとなっていたことが,国会にとって明白であったということは困難である。 
3 以上によれば,上記当時においては本件規定のうち100日超過部分が憲法に違反するものとなってはいたものの,これを国家賠償法1条1項の適用の観点からみた場合には,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。したがって,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。

裁判官山浦善樹の反対意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見と異なり,女性について6箇月の再婚禁止期間を定める本件規定の全部が憲法14条1項及び24条2項に違反し,上告人が前夫と離婚をした平成20年3月までの時点において本件規定を廃止する立法措置をとらなかった立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるべきものであるから,原判決を破棄して損害額の算定のため本件を原審に差し戻すのが相当と考える。以下においてその理由を述べる。
第1 本件規定の憲法適合性について
1 昭和22年施行の日本国憲法24条は,婚姻及び家族に関する事項について,従前の大日本帝国憲法(明治23年施行)における男性優位の思想とその下で制定された旧民法の家制度における封建的・性差別的な考えを完全に廃し,個人の尊厳と両性の本質的平等の理念を普遍的な価値であると宣言したものと解される。私は,婚姻の自由が,このようにして定められた憲法24条とその基礎にある憲法14条1項により,合理性のない性差別が排除された婚姻制度を利用し,そこから得られる様々な効果を享受することができる憲法上の重要な権利ないし利益になっていると考える。したがって,女性にのみ婚姻の制約を課す本件規定の憲法適合性を判断するに当たっては,国会の立法裁量の幅は相応の限定を加えたものとして捉えるべきであり,このような見地から,立法目的を正確に見定め,制定後1世紀以上を経過した現代においてもその目的に合理性があるか否かを検討するとともに,これを達成するための手段として必要性・相当性があるか否かをも検討し,他により影響の少ない方法がある場合には,本件規定は違憲の評価を帯びることになると解するのが相当である。
2 私は,本件規定の本来の趣旨は「血統の混乱を防止する」という目的を達成するための手段として離婚した女性に対し再婚を禁止するというものであるから,父性推定の重複回避の問題として単にその期間の長短を検討するだけではなく,再婚禁止の制度それ自体が男女平等と婚姻の自由を定めた憲法の趣旨に適合するか否かを正面から判断すべきであると考える。
 本件規定と同旨の規定が導入された旧民法制定当時の法典調査会や帝国議会における政府説明によると,再婚禁止期間の制度は血統の混乱を防止するためであるとされていた。例えば旧民法の立案に関わった梅謙次郎起草委員も,旧民法767条1項(現行民法733条1項と同旨)について,「本條ノ規定ハ血統ノ混亂ヲ避ケンカ爲メニ設ケタルモノナリ」とし,(生まれた子の父はどちらの男かの)「判断ヲ誤レハ竟ニ血統ヲ混亂スルニ至ルへシ」(『民法要義巻之四』91頁(明治32年))とする。そこでは,男性にとって再婚した女性が産んだ子の生物学上の父が誰かが重要で,前夫の遺胎に気付かず離婚直後の女性と結婚すると,生まれてきた子が自分と血縁がないのにこれを知らずに自分の法律上の子としてしまう場合が生じ得るため,これを避ける(つまりは,血統の混乱を防止する)という生物学的な視点が強く意識されていた。しかし,当時は血縁関係の有無について科学的な証明手段が存在しなかった(「造化ノ天秘ニ屬セリ」ともいわれた。)ため,立法者は,筋違いではあるがその代替措置として一定期間,離婚等をした全ての女性の再婚を禁止するという手段をとることにしたのである。禁止期間については,懐胎の有無が女の体型から分かるのは6箇月であるとの片山国嘉医学博士(東京帝国大学教授)の意見を参考にして6箇月とされた(旧民法767条1項)。
 したがって,その論理に従えば,離婚後に出産した女性等は再婚禁止の規制を受けないが(旧民法767条2項),それは父性の推定の重複がないからではなく,血統の混乱があり得ないからである。ほかに婚姻障害の規定としては,重婚の禁止,近親婚の禁止,姦通者と相姦者の再婚禁止(旧民法768条)などがあるが,再婚禁止もこれらと同じレベルで規制されていた(姦通罪は,家の血統や父権の維持のために認められた封建的色彩の強い規制であったのであり,再婚禁止ともその趣旨を共通にする部分がある。)。このような著しく性差別的な制度が成り立ったのは,当時は血縁の有無を判断する科学的な手段が存在しなかったことに加えて,旧憲法下においては家制度を中心とした男性優位の社会が国体の基本とされていたという二つの歴史的・社会的な背景があったからである。
3 多数意見は,本件規定の立法目的について,「父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐこと」であるとするが,これは,血縁判定に関する科学技術の確立と家制度等の廃止という社会事情の変化により血統の混乱防止という古色蒼然とした目的では制度を維持し得なくなっていることから,立法目的を差し替えたもののように思える。確かに,推定期間の重複回避というレベルの問題ならば,単純計算で,再婚禁止期間を約80日短縮して100日にすれば重複を回避できるから合憲であるという結論になる。しかし,単に推定期間の重複を避けるだけであれば,重複も切れ目もない日数にすれば済むことは既に帝国議会でも明らかにされており,6箇月は熟慮の結果であって,正すべき計算違いではない。学説が父性推定の重複を取上げるときには,再婚禁止期間の6箇月は計算上長期に過ぎるから100日に短縮すべし等という民法改正論の文脈で述べられていることが多いが,本件は,再婚禁止の制度それ自体の憲法適合性の裁判であり,その期間の長短の如何ではなく,他により影響の少ない手段があるにもかかわらず,再婚禁止という厳しい規制をすることの憲法的な存在意義が問われていることを見落としてはならない。
 また,再婚禁止の制度により血縁をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことが「子の利益」にかなうか否かについては,旧民法の立案者は妻を迎える側の立場に立って前夫の遺胎を心配していたのであって,生まれてくる子の利益を確保するなどということは,帝国議会や法典調査会等においても全く述べられていない。明治31年当時は女性は選挙権も与えられず,相当額の納税をしている一部の男性のみが立法に参加しているにすぎない。そういう帝国議会において旧民法が制定されており,旧憲法や旧民法には,子は男それも長男(嫡男)が重視され,二男や女児に至ってはその福祉を考える姿勢はなく,保護の対象から除外されていたといえる。このような時代において,離婚した女の再婚を禁じた旧民法に,生まれてくる子の利益の確保という視点があったとするのは余りにも歴史を無視したものと思われる。
4 そうはいっても,生物学上の父子関係の有無と法律上のそれとの食違いをできるだけ避けるということの合理性を否定することはできないから,このような意味においては,血統の混乱を防止するという立法目的もそれなりの合理性を有しているといえるであろう。したがって,血縁関係を正確に判定できる証明手段がなかった当時においては,後夫と血縁のない子が生まれることを防止するため再婚禁止期間を設けるという考え方も理解できないものではない。しかし,梅も「苟モ其(血統の)混亂ノ虞ナキ以上ハ可ナリトスルヲ妥當トス」(梅・前掲92頁)としているように,血縁を科学的に証明する手段があれば,再婚禁止という手段を設ける必要はなかったのである。
 旧民法が施行された明治31年頃とそれ以降の医科学の水準の変化についてみると,例えば,ABO式血液型が発見されたのは1900年(明治33年),産婦人科荻野久作排卵,受胎,妊娠に関するいわゆるオギノ理論を発表したのは大正13年(1924年),それが学会で受け入れられるに至ったのは昭和5年以降であり,いずれも旧民法制定より後のことである。DNA検査に関していえば,1953年(昭和28年)にDNAの二重らせん構造が発見され,1985年(昭和60年)に至ってDNAフィンガー・プリント法という検査手法が確立され,我が国においてDNA検査が実用化されたのは平成3年頃のことである。その後,裁判実務等におけるDNA検査の利用も一般的なものとなり,近年では,簡易に,低額の費用で正確な父子判定を行うことができるようになっている。このように,旧民法制定から約100年余の間に科学的・医学的研究は急速な発展を遂げており,生物学上の親子関係の証明は「造化ノ天秘ニ屬」することで不可能という前提の下に,離婚した全ての女性に対して再婚禁止を課すなどという手荒な手段をとらなくても,血統の混乱を防止することが可能になった。
 以上のように,DNA検査技術の進歩により生物学上の父子関係を科学的かつ客観的に明らかにすることができるようになった段階においては,血統の混乱防止という立法目的を達成するための手段として,再婚禁止期間を設ける必要性は完全に失われているというべきであり,本件規定はその全部が違憲であると考える。
5 もっとも,本件規定の全部を違憲無効とした場合には,まれには父性の推定が重複する子が生まれる可能性がある。多数意見は,そういう「子の利益を守る」という視点からも,本件規定のうち離婚直後の100日の再婚禁止については合憲であるとする。しかし,この考え方は,次のように,再婚禁止の規制とそれにより保護しようとする価値とを比較考量すると,その必要性・相当性に疑問が残り,かねて「父性推定の衝突を避けるという法技術的な理由に名を借りて女性を規制している」と批判されているが,私も,これと同じ考えから,多数意見には賛同できない。
(1)本件規定がないとしても,父性の推定が重複する子を出産する女性の割合はごく僅かである。例えば,民法772条2項に関する法務省民事局の調査結果(平成19年5月1日読売新聞)によると,平成18年の11月と12月に提出された出生届の一部についての調査(無作為抽出の6493通)の結果,その中に離婚後300日以内に出産した女性のケースが17件あったという(出生届に対する割合は約0.26%である。)。同年の出生届は全国で109万2674件であるから,離婚後300日以内に出産した女性の概算は2860人となり,そのうち出産時に再婚していた女性の数は更に少ないものとなる。同年に離婚した女性(25万7475人)ないし同年に再婚した女性(11万8838人)の数と比較すると,結局,離婚した女性の大多数に対する再婚禁止は客観的には無意味で必要がなかったことになる。私は,離婚した女性の全員に対して婚姻の自由を制限するのではなく,たまたま父性の推定が重複する期間に生まれた例外中の例外の子に対しては,父が定まるまでの手続的に要する期間等のためにその子の利益にならない等と突き放すのではなく,国としてはその子の父を判定するために個別的な救済手続を設けるべきであり,もしその子に不都合が生ずるというのであれば,推定規定の合理化など必要な法改正・法解釈あるいは実務改善など,より影響の少ない方法のために知恵を出し合うことが肝要で,それにより十分に立法目的を達成することができると思う。このように本件規定は,生まれてくるかどうか分からない子のために離婚等をした全ての女性に対して再婚禁止という過剰な制約を課すものであり,旧憲法から新憲法に改正がされ,しかも他の効果的な解決方法が実用化された現在においては,その全部につき違憲の評価を免れるものではない。
(2)多数意見によれば,再婚を100日間禁止すると,離婚届の後300日以内に生まれた子は全て前夫の法律上の子とすることが可能となり,それが子の利益になるというが,私は,それではむしろ離婚と再婚が接近している事例では血縁のない父子関係となる可能性が高まるので,信頼できる法的手続において科学的・客観的な判定を行い,父子関係を形成する方法をとるべきであると思う。近年の医療や科学水準を前提にすれば,生物学上の父子関係の判定は容易にできるのであって,民法773条(父を定めることを目的とする訴え)の類推適用によることに,それほど大きな負担が伴うわけではない。裁判での争点は血縁の有無だけであり,関係者の性生活などのプライバシーをさらけ出す必要性はなく,当事者らが自ら血縁ありと主張していながらその証明のための科学的鑑定に協力しないという状況は考えにくい。私は,この子にとって最初で最後となるこの機会に,最高の科学技術を活用して真実の父を定めることこそが本当の子の利益になるものと思う。
(3)さらに,多数意見のいう生まれた子にとって法律上の父を確定できない状態がしばらく続くことによる不利益も,少なくとも近年においてはそれほど重大なものとはいえなくなっている。実際には,裁判手続等が行われている間であっても,住民票への記載が可能であり,旅券の交付を受けることもでき,児童手当,保育所への受入れ,保健指導,健康診査等の各種の行政サービスを受けることも可能なのである。父子関係の早期確定という名目で再婚禁止期間を設けて,出産の時期という形式的な基準で法律上の父を前夫と決めてしまうことが,しばらくの間,父未定とされるけれどもその子にとって合理的な手続によって真実の父を定めることに比して,どれだけ子の利益になるのか疑問である。
6 共同補足意見は,本件規定の立法目的が父性の推定の重複を回避することであることを前提に,本件規定は前婚の解消等の時点で懐胎していない女性には適用されないと解している。しかし,それでも再婚しようとする女性は産婦人科に行き閉経により受胎能力がない旨の医師の診断書を入手するか,又は検査を受けて妊娠していない旨の証明書の交付を受けねばならないなどの事実上の負担を強いられることになる。それよりも端的に,100日の再婚禁止期間を設ける部分についてもその規定自体を違憲無効とし,例外中の例外として父性の推定が重複する子が生まれたときには、事後的,個別的な救済手続に委ねることの方が,婚姻の自由を確保するという見地からも妥当性を有するものと考える。
7 私は,DNA検査等による父子の血縁関係の証明に関し,父子関係の推定が及ぶ男性に対して父子関係不存在確認訴訟を提起する場合(最高裁平成24年(受)第1402号同26年7月17日第一小法廷判決・民集68巻6号547頁参照)は,既に法律上の父子関係が確定しているにもかかわらず,その後の訴訟において法律上の父を変更できるかという問題であるから,上記のように父を定めることを目的とする訴えの場合とは問題状況を異にするものと考える。すなわち,前者の場合は,一旦確定した法律上の父子関係を安定したものとして維持する必要があるから,その後にDNA検査の結果など確実な証拠によっても,血縁関係を証明して父子関係を覆すことが必ずしも子の利益にかなうとはいえないのに対し,後者の場合は,子の誕生の瞬間は二人の父(前夫・後夫ともに父性の推定を受けているから形式的には法律上の父になり得る資格を有している。)がいることになり,正に血縁がある父を判定しなければならないのであるから,子の将来にとって,科学技術を有効に利用して生物学上の父を正確に判定し,法律的な父を確定することが必要であると思うからである。 
8 本件規定が全部違憲であるとすることは,諸外国における再婚禁止の制度の全面廃止の流れにも沿うものといえよう。すなわち,かつては,世界的にも,父子の血縁を証明する科学的手段がないため,再婚禁止が男女平等原則に反するという明確な主張はなかった。その後,大きく流れが変わったのは,DNAの二重らせん構造が発見された1953年(昭和28年)からDNAの実用化に成功した1985年(昭和60年)にかけてのことであり,諸外国において次々と再婚禁止制度が廃止され,現在では,主要国で我が国のような再婚禁止の制度を残している国はほとんどないという状況である。例えば,最近の例として,我が国とよく似た法制を採っていた大韓民国の場合について一瞥すると,親生否認の訴え(日本の嫡出否認の訴えに相当する。)について,1997年(平成9年),憲法裁判所は,真実の血縁関係に反する親子関係を否認する機会を極端に制限したものであり立法裁量の限界を超えたものであるというという理由で憲法違反と判断した。そこで2005年(平成17年)の法改正で,親生否認の訴えについて,出訴権者を夫又は母とし,出訴期間をその事由を知った日から2年に拡大した(高翔龍「韓国家族法の大改革」ジュリスト1294号84頁以下)。それと同時に,韓国民法811条の女性に対する6箇月の再婚禁止規定について,「婚姻が婚姻申告の受理によって成立する国では,この制度は実際上何の役割も果たさないことは明白である。かえって,その違反を婚姻の取消原因にしたために,女性に過酷な結果をもたらす危険性さえ内包している。そこで,2005年の民法一部改正によって削除された。」(金疇洙=金相★『注釈大韓民国親族法』28頁(日本加除出版,平成19年))。そして,仮に父性の推定が重複する子が生まれた場合には「法院による父の決定」(韓国民法845条)(日本の父を定めることを目的とする訴えに相当する。)により家庭法院において科学的判断に基づいて解決すれば足りるとし,一定の場合には検査を受ける者の健康と人格の尊厳を害しない範囲内で,当事者又は関係人の血液検査及びDNA検査を利用することができるとした(韓国家事訴訟法29条)(在日コリアン弁護士協会編『Q&A新・韓国家族法第2版』51頁,135頁(日本加除出版,平成27年))。
 このほか,国連の自由権規約委員会や女子差別撤廃委員会から我が国に対し,再婚禁止期間の制度が国際条約における男女平等や自由に婚姻をすることができる旨の規定に違反するものとされ,1998年(平成10年)以降,廃止すべきことの要請ないし勧告が繰り返しなされていることも重要な事実である。
 以上の事実は,我が国における憲法解釈に関して直接の根拠となるものでないものとしても,再婚禁止期間の制度が憲法24条2項に規定する夫婦及び家族に関する男女平等の理念に反していることを基礎付けることとなる社会状況の変化を示す重要な事実ということができるであろう。
第2 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について
1 本件規定が違憲になった時期
 本件規定について,憲法違反という評価がされるに至ったのは,一つは科学技術の発展により生物学上の父子関係を容易かつ正確に判定することが可能となったことであるが,それだけではなく,第2次世界大戦後の国際的な人権活動や差別反対運動などにより地球規模で男女平等・性差別の撤廃をめざす大きな潮流があったことも影響している。したがって,再婚禁止の制度が違憲となった時期は上記の2つの要素があいまって,その成果が結実した時点であるといって差し支えない。私は,遅くとも21世紀に入った段階(平成13年)ではこれらの要素が備えられ,この時点では既に違憲になっていたと考える。
2 本件立法不作為の違法性
 私は,立法不作為の国家賠償法上の違法性を判断する基準については,多数意見第3の1に示されたところに異論を唱えるものではない。しかしながら,その基準を本件に適用した結論については賛同することができない。その理由は,以下のとおりである。
 本件規定を改廃しない立法不作為の違法性については,これを否定した先例である平成7年判決における立法不作為の判断基準時が平成元年であったのに対し,本件では上告人が前婚を解消した平成20年の時点における立法不作為の違法性が問題とされているのであって,その間には20年近くという長い期間が経過しており,妨げにはならない。平成3年以降,DNA検査技術が発達し,生物学上の父子関係を容易かつ正確に判定することができるようになったことは公知の事実である。また,その間,婚姻や家族をめぐる国民の意識や社会状況はかなり変化しており,再婚禁止期間の制度を廃止する諸外国の傾向が明らかになり,国連の委員会からも繰り返し本件規定の廃止勧告等がされているのである。
 そうすると,本件規定が,離婚等により前婚を解消した女性に一律に6箇月間再婚を禁止していることが婚姻の自由の過剰な制約であって憲法に違反するに至っていたことは,上告人が離婚をした平成20年より相当前の時点において,国会にとっては明白になっていたというべきである(なお,多数意見のように本件規定のうち100日超過部分に限って違憲であると考えるとしても,平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において再婚禁止期間を100日に短縮する改正案が示されており,その際の議論において,100日超過部分を存続する必要性があることを合理的に説明できる理由が挙げられておらず,加えて憲法及び民法の研究者の本件規定についての研究をも参照すれば,その頃以降は,国会にとって,父性の推定の重複を回避するためには再婚禁止期間が100日で足りることが明白になっていたということができよう。)。
 そして,本件規定につき国会が正当な理由なく長期にわたってその廃止の立法措置を怠ったか否かについては,本件規定を改廃することについて立法技術的には困難を伴うものではないから,遅くとも平成20年の時点においては,正当な理由なく立法措置を怠ったと評価するに足りる期間が経過していたというべきである。
 以上の検討によれば,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるとともに,過失の存在も否定することはできない。このような本件立法不作為の結果、上告人は,前婚を解消した後,直ちに再婚をすることができなかったことによる精神的苦痛を被ったものというべきである。
 したがって,本件においては,上記の違法な本件立法不作為を理由とする上告人の国家賠償請求を認容すべきであると考える。