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行政法 処分性の判例 その2

6 最高裁判所大法廷昭和59年12月12日 判決  輸入禁制品該当通知処分等取消

 被上告人らは、三号物件に該当する貨物につき輸入が禁止されること自体は、同条一項の規定により一般的に生じている効力によるものであつて、この税関長の通知は、右条項により生じた輸入禁止の一般的効力に対し何ら加えるところはなく、関税法上も輸入申告に対し不許可処分をすべき旨の規定がないから、輸入禁制品に限らず輸入手続一般において税関長は不許可処分をすることはない、と主張する。被上告人らが原審において、右の税関長の通知は何ら輸入の禁止又は不許可の効果を生ずるものではなく、輸入禁制品については、輸入の禁止又は不許可等の行政庁の何らの処分を要しないで、同条一項の実体規定による当然の効果として、当該貨物を適法に輸入することができないという制約が生ずる旨主張したのも同一趣旨であると解される。

 しかしながら、輸入申告にかかる貨物又は輸入される郵便物中の信書以外の貨物が輸入禁制品に該当する場合法律上当然にその輸入が禁止されていることは所論のとおりであるとしても、通関手続の実際において、当該貨物につき輸入禁止という法的効果が肯認される前提として、それが輸入禁制品に該当するとの税関長の認定判断が先行することは自明の理であつて、そこに一般人の判断作用とは異なる行政権の発動が存するのであり、輸入禁制品と認められる貨物につき、税関長がその輸入を許可し得ないことは当然であるとしても、およそ不許可の処分をなし得ないとするのは、関係法規の規定の体裁は別として、理由のないものというほかはない

 進んで、当該貨物が輸入禁制品に該当するか否かの認定判断につき、これを実際的見地からみるのに、例えばあへんその他の麻薬(一号物件)については、その物の形状、性質それ自体から輸入禁制品に該当することが争う余地のないものとして確定され得るのが通常であるのに対し、同条一項三号所定の「公安又は風俗を害すべき」物品に該当するか否かの判断はそれ自体一種の価値判断たるを免れないものであつて、本件で問題とされる「風俗」に限つていつても、「風俗を害すべき」物品がいかなるものであるかは、もとより解釈の余地がないほど明白であるとはいえず、三号物件に該当すると認めるのに相当の理由があるとする税関長の判断も必ずしも常に是認され得るものということはできない。

 通関手続の実際においては、前述のとおり、輸入禁制品のうち、一、二、四号物件については、これに該当する貨物を没収して廃棄し、又はその積みもどしを命じ(同条二項)、三号物件については、これに該当すると認めるのに相当の理由がある旨を通知する(同条三項)のであるが、およそ輸入手続において、貨物の輸入申告に対し許可が与えられない場合にも、不許可処分がされることはない(三号物件につき税関長の通知がされた場合にも、その後改めて不許可処分がされることはない)というのが確立した実務の取扱いであることは、被上告人らの自陳するところであつて、これによると、同法二一条三項の通知は、当該物件につき輸入が許されないとする税関長の意見が初めて公にされるもので、しかも以後不許可処分がされることはなく、その意味において輸入申告に対する行政庁側の最終的な拒否の態度を表明するものとみて妨げないものというべきである。輸入申告及び許可の手続のない郵便物の輸入についても、同項の通知が最終的な拒否の態度の表明に当たることは、何ら異なるところはない。そして、現実に同項の通知がされたときは、郵便物以外の貨物については、輸入申告者において、当該貨物を適法に保税地域から引き取ることができず(関税法七三条一、二項、一〇九条一項参照)、また、郵便物については、名あて人において、郵政官署から配達又は交付を受けることができないことになるのである(同法七六条四項、七〇条三項参照)。

 以上説示したところによれば、かかる通関手続の実際において、前記の税関長の通知は、実質的な拒否処分(不許可処分)として機能しているものということができ、右の通知及び異議の申出に対する決定(関税定率法二一条五項)は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分及び決定に当たると解するのが相当である(ちなみに、昭和五五年法律第七号による関税法等の一部改正により、関税定率法二一条四、五項の規定が削除され、同条三項の通知についての審査請求及び取消しの訴えに関し、明文の規定が関税法九一条、九三条に設けられるに至つた。)。 

 

7 最高裁判所第三小法廷平成23年6月14日判決 行政処分取消等請求事件

 本件契約は,上告人が価格の高低のみを比較することによって本件民間移管に適する手方を選定することができる性質のものではないから,地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないもの」として,随意契約の方法により締結することができるものである。また,紋別市公の施設に係る指定管理者の指定手続に関する条例及び同条例施行規則は,上告人の設置する公の施設に係る地方自治法244条の2第3項所定の指定管理者の指定の手続について定めたものであって(同条例1条参照),本件契約の締結及びその手続につき適用されるものではない。そうすると,本件募集は,法令の定めに基づいてされたものではなく,上告人が本件民間移管に適する事業者を契約の相手方として選考するための手法として行ったものである。

 以上によれば,紋別市長がした本件通知は,上告人が,契約の相手方となる事業者を選考するための手法として法令の定めに基づかずに行った事業者の募集に応募した者に対し,その者を相手方として当該契約を締結しないこととした事実を告知するものにすぎず,公権力の行使に当たる行為としての性質を有するものではないと解するのが相当である。したがって,本件通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである

 

8 最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決 住民票不記載処分取消等請求事件

 上告人子につき住民票の記載をすることを求める上告人父の申出は住民基本台帳法(以下「法」という。)の規定による届出があった場合に市町村(特別区を含む。以下同じ。)の長にこれに対する応答義務が課されている(住民基本台帳法施行令(以下「令」という。)11条参照)のとは異なり,申出に対する応答義務が課されておらず,住民票の記載に係る職権の発動を促す法14条2項所定の申出とみるほかないものである。したがって,本件応答は,法令に根拠のない事実上の応答にすぎず,これにより上告人子又は上告人父の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないと解される

 

9 最高裁判所第二小法廷平成24年2月3日判決 土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件

 都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである

 都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない。 

 以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である

行政法 処分性の判例

1 最高裁判所第一小法廷昭和30年2月24日 判決民集 第9巻2号217頁

行政事件訴訟特例法が行政処分の取消変更を求める訴を規定しているのは、公権力の主体たる国又は公共団体がその行為によつて、国民の権利義務を形成し、或はその範囲を確定することが法律上認められている場合に、具体的の行為によつて権利を侵された者のために、その違法を主張せしめ、その効力を失わしめるためである。

 

2 最高裁判所大法廷平成20年9月10日判決

そうすると,施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり,事業計画の決定に伴う法的効果が一般的,抽象的なものにすぎないということはできない。

 

3 最高裁判所第一小法廷平成7年3月23日判決

 右のような定めは、開発行為が、開発区域内に存する道路、下水道等の公共施設に影響を与えることはもとより、開発区域の周辺の公共施設についても、変更、廃止などが必要となるような影響を与えることが少なくないことにかんがみ事前に 、開発行為による影響を受けるこれらの公共施設の管理者の同意を得ることを開発許可申請の要件とすることによって、開発行為の円滑な施行と公共施設の適正な管理の実現を図ったものと解される。そして 国若しくは地方公共団体又はその機関( 以下「行政機関等」という )が公共施設の管理権限を有する場合には、行政機関等が法三二条の同意を求める相手方となり行政機関等が右の同意を拒否する行為は、公共施設の適正な管理上当該開発行為を行うことは相当でない旨の公法上の判断を表示する行為ということができる。この同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、これは、法が前記のような要件を満たす場合に限ってこのような開発行為を行うことを認めた結果にほかならないのであって、右の同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止又は制限する効果をもつものとはいえない。したがって、開発行為を行おうとする者が、右の同意を得ることができず、開発行為を行うことができなくなったとしても、その権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないから、右の同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであると解することはできない

 

4 最高裁判所第一小法廷 平成15年9月4日 判決

 このような労災就学援護費に関する制度の仕組みにかんがみれば,法は,労働者が業務災害等を被った場合に,政府が,法第3章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために,労働福祉事業として,保険給付と同様の手続により,被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定しているものと解するのが相当である。そして,被災労働者又はその遺族は,上記のとおり,所定の支給要件を具備するときは所定額の労災就学援護費の支給を受けることができるという抽象的な地位を与えられているが,具体的に支給を受けるためには,労働基準監督署長に申請し,所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず,労働基準監督署長の支給決定によって初めて具体的な労災就学援護費の支給請求権を取得するものといわなければならない。

 そうすると,労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,被災労働者又はその遺族の上記権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。論旨は理由がある。

 

5 最高裁判所大法廷昭和36年3月15日 判決

 すなわちこの裁決は、上述の海難の原因を明らかにする裁決であつて、被上告人に何等かの義務を課しもしくはその権利行使を妨げるものでないことは、法律の規定及び裁決自体によつて明らかであり、被上告人の過失を確定する効力もないことは後述するとおりである。そうだとすれば、本件裁決は被上告人の権利義務に直接関係のない裁決であつて、これを行政処分と解することはできず、被上告人から出訴することは許されないものとしなければならない

婚姻費用分担審判特別抗告事件(最三決平成20年5月8日) 

憲法32条所定の裁判を受ける権利が性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の判断を求めることができる権利をいうものであることは,当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和26年(ク)第109号同35年7月6日大法廷決定・民集14巻9号1657頁,最高裁昭和37年(ク)第243号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号1114頁参照)。したがって,上記判例の趣旨に照らせば,本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は,同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないというべきであるから,原審が,抗告人(原審における相手方)に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできず,本件抗告理由のうち憲法32条違反の主張には理由がない。また,本件抗告理由のその余の部分については,原審の手続が憲法31条に違反する旨をいう点を含めて,その実質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって,民訴法336条1項に規定する事由に該当しない

不当利得返還請求事件(最二判平成18年11月27日)

 オ 被上告人大学の主張によれば,上告人の母は,平成16年3月26日に被上告人大学に電話をかけた際に,上告人が他の大学から補欠合格の連絡を受けたが,被上告人大学への入学を辞退できるか,辞退した場合,授業料は返してもらえるかを問い合わせたというのである。そして,上記電話に応対した被上告人大学の職員は,授業料の返還を受けるための入学辞退届は同月25日必着で提出しなければならない旨及び入学式に出席しなければ入学辞退として取り扱う旨同人に述べたこと,上告人は,同年4月2日の被上告人大学の入学式に欠席することによって本件在学契約を解除する旨の意思表示をしたことは,上記のとおりである。そして,本件において,前記(1)クにおいて説示する原則と異なる事情も証拠上うかがわれないから,同年3月31日までの在学契約の解除については,被上告人大学に生ずべき平均的な損害はなく,本件不返還特約は無効であるところ,上記のような事実関係によれば,被上告人大学の職員の上告人の母に対する上記発言により,上告人は,既に入学辞退を決めていたのに,その手続を3月31日まで執らずに4月2日の入学式に欠席することにより済まそうとしたものと推認され,結果的に上告人において同年3月31日までに本件在学契約を解除する機会を失わせたものというべきであるから,被上告人大学において,本件在学契約が同年4月1日以降に解除されたことを理由に,本件不返還特約が有効である旨主張して本件授業料の返還を拒むことは許されないものというべきである。そうすると,被上告人大学は,上告人に対し,本件授業料80万円を返還する義務を負う。

所有権移転登記手続等請求事件(最一判21年4月23日)

 区分所有建物について,老朽化等によって建替えの必要が生じたような場合に,大多数の区分所有者が建替えの意思を有していても一部の区分所有者が反対すれば建替えができないということになると,良好かつ安全な住環境の確保や敷地の有効活用の支障となるばかりか,一部の区分所有者の区分所有権の行使によって,大多数の区分所有者の区分所有権の合理的な行使が妨げられることになるから,1棟建替えの場合に区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議ができる旨定めた区分所有法62条1項は,区分所有権の上記性質にかんがみて,十分な合理性を有するものというべきである。そして,同法70条1項は,団地内の各建物の区分所有者及び議決権の各3分の2以上の賛成があれば,団地内区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数の賛成で団地内全建物一括建替えの決議ができるものとしているが,団地内全建物一括建替えは,団地全体として計画的に良好かつ安全な住環境を確保し,その敷地全体の効率的かつ一体的な利用を図ろうとするものであるところ,区分所有権の上記性質にかんがみると,団地全体では同法62条1項の議決要件と同一の議決要件を定め,各建物単位では区分所有者の数及び議決権数の過半数を相当超える議決要件を定めているのであり,同法70条1項の定めは,なお合理性を失うものではないというべきである。また,団地内全建物一括建替えの場合,1棟建替えの場合と同じく,上記のとおり,建替えに参加しない区分所有者は,売渡請求権の行使を受けることにより,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すこととされているのであり(同法70条4項,63条4項),その経済的損失については相応の手当がされているというべきである。

 (3) そうすると,規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すれば,区分所有法70条は,憲法29条に違反するものではない。このことは,最高裁平成12年(オ)第1965号,同年(受)第1703号同14年2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁の趣旨に徴して明らかである。論旨は採用することができない。

市議会委員会の傍聴拒否事件(大阪地判平成19年2月16日)

 このように,様々な意見,知識,情報に接し,これを摂取する自由は,民主主義社会において,代表者による政治が国民(住民)の批判にさらされ,民意に基づく審議を可能にするための重要な一手段ということができるのである。しかるところ,住民は,地方議会の会議の内容を広く見聞することにより,議会の活動状況や議員の行動等を知ることができ,ひいては次の選挙における投票行動を決定することができるようになるのであるから,住民が地方議会の会議を傍聴することは,住民が地方公共団体の政治に関与するに当たり,重要な判断の資料を提供するものというべきである。そうすると,住民が地方議会の会議を傍聴する自由は,前記のとおり,憲法上地方議会の会議の公開が制度的に保障されていることの結果にとどまらず,様々な意見,知識,情報に接し,これを摂取する自由の派生原理としても認められるものというべきである。そして,前記のとおり,今日においては,地方自治法及びその委任を受けた条例により規定された委員会制度の下において,各委員会における議案等の予備審査等が,本会議における審議と同程度に,あるいは,それ以上に,地方議会における審議の中心となっていることが認められるのであるから,このことをもしんしゃくすれば,住民が地方議会の委員会の会議を傍聴する自由も,本会議を傍聴する自由と同様の趣旨で,様々な意見,知識,情報に接し,これを摂取する自由の派生原理として尊重されるべきものということができる。

 もっとも,前記のとおり,地方議会の委員会は,議案についての最終的な意思決定を行ういわゆる本会議とは異なり,議案等の予備審査等を行う内部機関として地方自治法及びこれに基づく条例の規定により設けられているものにすぎず,憲法もその会議の公開はもとよりその設置自体についてもこれを制度として保障していないことにかんがみると,住民が地方議会の委員会の会議を傍聴する自由については,他者の人権と衝突する場合にはそれとの調整を図る上において,又はこれに優越する公共の利益が存在する場合にはそれを確保する必要から,一定の合理的制限を受けることがあることはやむを得ないものとして,憲法自体がそのことを予定していると解されるのであり,このような観点から委員会傍聴の許否の要件,手続等をどのように定めるかについては,条例の定めにゆだねられているものと解するのが相当である。そして,このような観点から条例において地方議会の委員会の傍聴を制限する旨の規定を設けた場合において,当該制限規定が憲法21条1項に適合して是認されるものであるかどうかは,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として傍聴を制限することの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。

 カ 以上のとおり,地方議会の委員会においては,本会議における会議,すなわち,最終的な意思決定のための審議及び表決の準備のために,専門的,技術的な審査等を行う内部機関としての性格上,自由かつ率直な審議の場を確保してその審査及び調査の充実を図ることは,それ自体重要な公益ということができるのであって,このような観点から個々の住民の委員会の会議を傍聴する自由が制限を受けることとなってもやむを得ないというべきところ,本件条例12条1項は,議員以外の者に委員会の傍聴をさせることが,当該委員会において自由かつ率直な審議の場を確保してその審査及び調査の充実を図る観点から適当か否かの判断を,委員会の秩序保持権を有する委員長の判断にゆだねたものであるから,同項の目的は正当かつ合理的なものということができる上,その目的を達成する手段としての合理性及び必要性を肯定することもできる。

 キ したがって,本件条例12条1項の規定が,議員以外の者の委員会の傍聴を委員長の許否の判断にゆだねていることは,国民(住民)の様々な意見,知識,情報に接し,これを摂取する自由が尊重されるものとした憲法21条1項に反するものではないというべきである。

 ところで,前記のとおり,各人が様々な意見,知識,情報に接し,これを摂取する自由は,表現の自由を保障した憲法21条1項の趣旨,目的から,いわばその派生原理として当然に導かれるところであり,その自由は,民主主義社会において,代表者による政治が国民(住民)の批判にさらされ,民意に基づく審議を可能にするための重要な一手段ということができるのである。このことに加えて,会議場の場所的制約にもかんがみると,報道機関が地方議会の会議を傍聴する自由というのは,国民(住民)の知る権利(情報等に接し,これを摂取する自由)に奉仕するものとして,個々の住民の傍聴の自由以上に重要な意味を有するということができ,取材の自由の派生原理として十分尊重に値するものというべきである。

 そうであるとすれば,報道機関の有する取材の自由にかんがみても,委員会において自由かつ率直な審議の場を確保してその審査及び調査の充実を図る観点から,当該委員会の傍聴を当該委員会の委員長の許否の判断にゆだねることの合理性及び必要性について,個々の住民の傍聴の場合と報道の任務に当たる者の傍聴の場合とで異なって解すべき根拠を見いだせず,したがって,本件条例12条1項の規定が,報道の任務に当たる者についても,委員会の傍聴を委員長の許否の判断にゆだねていることは,憲法21条1項に反するものではないものというべきである。

 前記のとおり,報道機関の報道は,民主主義社会において,国民が国政に関与するにつき,重要な判断の資料を提供するものであって,事実の報道の自由は,表現の自由を保障した憲法21条の保障の下にあることはいうまでもなく,このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには,報道の自由とともに,報道のための取材の自由も,憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値するものである。本件条例12条1項に基づく委員長の委員会の傍聴の許否の判断における裁量権の行使に当たって,報道の公共性,ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき,報道機関の記者(報道の任務に当たる者)をそれ以外の一般の住民に対して優先して傍聴させるという取扱いをすることは,地方政治の報道の重要性に照らせば,合理性を欠く措置ということはできず,憲法14条1項に違反しないものというべきである(最高裁昭和63年オ第436号平成元年3月8日大法廷判決・民集43巻2号89頁参照)。本件先例は,上記の趣旨の運用基準を定めたものと解されるから,憲法14条1項に違反しないものというべきである。

 そして,上記のような本件条例12条1項の規定の運用により,報道機関(報道の任務に当たる者)以外の個々の住民の委員会を傍聴する自由が制限されることとなるとしても,これら一般の住民は,委員会の傍聴を認められた報道機関による当該委員会の会議に係る事実の報道等を通じて,当該委員会の活動状況や議員の行動等を知ることが可能ということができるのであり,他方で,このような報道活動を通じて,住民の間に世論が形成され,民意に基づく審議が可能となるということができるから,憲法21条1項に違反するということはできない

 しかるところ,前記のとおり,報道機関による委員会の傍聴は,報道機関が会議を見聞し,その事実を報道することによって,住民が地方議会の活動状況や議員の行動等を知ることを可能にし,それによって民意の形成に寄与し,ひいては民意に基づく議会の審議が可能になり,民主的基盤に立脚した地方公共団体の行政の健全な運営に資するという機能を有するものであり,このような報道機関の報道の有する機能,公共性等にかんがみ,本件条例12条1項に基づく委員長の委員会傍聴の許否の判断に当たり,会議場の場所的制約の下において,報道機関(報道の任務に当たる者)をそれ以外の一般の住民に優先して,すなわち,これら住民の委員会の会議を傍聴する自由の制限と引き換えに,傍聴させる取扱いをすることの合理性を肯定することができるのである。そうすると,委員会の会議を傍聴した報道機関によりその会議に係る誤った事実又は不正確な事実が報道されたような場合には,当該報道に接した住民がその報道内容が真実であると誤解し,委員会の活動状況や議員の行動等についての正確な事実認識を踏まえた公正な民意の形成が阻害され,そのために委員会における十分な審査及び調査の遂行に支障を来す事態を招来する可能性も一概に否定することができない。そして,委員会における審査及び調査は,法制上は,地方議会の本会議における最終的な意思決定の準備のための内部的な手続にすぎないものの,地方自治法及びその委任を受けた条例により規定された委員会制度の下において,各委員会における議案等の予備審査等が,本会議における審議を充実させ,適切な表決を迅速に行うことを可能にするための重要な手続として位置付けられ,機能していることにかんがみれば,委員会における十分な審査及び調査の遂行が妨げられることにより,ひいては本会議において充実した審議の上適切な表決を迅速に行うことを阻害する結果をもたらすことにもなりかねず,その弊害は住民全体の利益にかかわるものであり,しかも,報道機関の報道が住民に与えた印象は容易に払拭し難いことをも併せ考えれば,その弊害の程度は決して軽視することはできないものというべきである。以上説示したような委員会の会議に係る事実の報道の重要性,公共性,誤った事実又は不正確な事実の報道が地方行政にもたらす弊害の大きさ等にかんがみると,本件条例12条1項に基づく委員長の委員会傍聴の許否についての判断に当たり,委員会の会議に係る事実を正確に報道することのできる能力,資質を備えた報道機関に限って委員会の傍聴を認める取扱いをすることは,その必要性及び合理性を十分肯定することができる。のみならず,前記のような委員会の議会における組織上,手続上の位置付け並びに議会の議事手続における委員会の議案についての審査及び調査の意義ないし重要性にかんがみると,その会議に係る事実について誤った又は不正確な報道がされることによる弊害を排除する必要性はより大きいというべきである。

 このような観点からすれば,本件条例12条1項に基づく委員長の委員会傍聴の許否についての判断に当たり,委員会の会議に係る事実を正確に報道することのできる能力,資質を備えない報道機関に委員会を傍聴させた場合に生じ得る上記のような弊害にかんがみ,報道機関に委員会の会議に係る事実を正確に報道することのできる能力,資質が制度的に担保されていると認められるための基準をあらかじめ設定し,当該基準に従って一律に報道機関の委員会傍聴の許否を判断する取扱いをすることも,その基準が合理的なものである限り,必要やむを得ないものとしてその必要性,合理性を肯定せざるを得ないというべきである。そして,その結果,当該基準に該当しないものの,上記のような能力,資質を備えた報道機関が委員会の傍聴を認められないことがあっても,上記のとおり当該能力,資質を個別具体的に判断することの困難性,誤って当該能力,資質を欠く報道機関に傍聴を認めた場合に生じ得る弊害の大きさ等にかんがみると,やむを得ないものというべきであり,既に説示したような地方議会の委員会の傍聴の自由の内容,性質に加えて,委員会の傍聴における報道機関の優先的な地位が本件条例12条1項に基づく委員長の裁量権の合理的な行使の結果として付与されるものであることにもかんがみると,憲法21条1項に違反するということはできない

 これらの認定事実によれば,大阪市記者クラブは,同クラブに所属する報道機関ないし記者の取材ないし報道活動を自主的に規律する私的な団体であるということができるところ,前記認定の規約の規定内容に加えて,加盟者である各報道機関の報道に係る読者ないし視聴者の規模等にもかんがみると,同クラブに所属する報道機関ないしその記者の間における相互規制等を通じて報道に係る一定の行為規範,価値基準が共有され,それによって事実の正確な報道が担保され,しかも,その存在意義について相当数の国民(住民)から支持されていると推認され,報道分野において重要な役割を果たしているということができるから,同クラブ所属の報道機関ないしその記者は,委員会の会議に係る事実を正確に報道することのできる能力,資質を備えた者であることが,相当の根拠をもって担保されているものということができる。そうであるとすれば,大阪市記者クラブに所属する記者であるか否かという基準は,委員会の傍聴を希望する報道機関ないしその記者に前記の能力,資質が制度的に担保されていると認められるための基準として,十分合理的なものということができる。

 カ 以上検討したところによれば,委員長が,本件条例12条1項に基づく委員会の傍聴の許否の判断に当たり,本件先例に依拠して,原則として大阪市記者クラブ所属の記者にのみ傍聴を許可するという運用をすることは,憲法21条1項に違反するということはできず,また,合理的な理由なくして同クラブに所属する記者とそれ以外の報道機関ないし記者を差別するものとして憲法14条1項に違反するということもできない

 しかしながら,前記1及び2で説示したとおり,委員長が,本件条例12条1項に基づく委員会の傍聴の許否の判断に当たり,本件先例に依拠して,原則として大阪市記者クラブ所属の記者にのみ傍聴を許可するという運用をすることは,憲法21条1項,14条1項に違反するということはできないのであり,本件不許可処分をした村尾委員長の判断も,結局のところ,このような運用に従ってされたものである(前記前提となる事実等(5)参照)から,本件不許可処分は,憲法21条1項,14条1項に違反するということはできない。

 しかるところ,前記前提となる事実等(5)及び弁論の全趣旨によれば,本件不許可処分は,本件委員会の各派代表者会議に諮った上,本件先例に依拠した原則的取扱いとする意向が多数であったことを踏まえて行われたものであると認められ,その理由も文書(甲2)により原告に告知されている事実が認められる。このことに加えて,前記のとおり,原告のような報道機関ないしその記者が委員会の会議に係る事実を正確に報道することのできる能力,資質を備えたものであるか否かを個別具体的に判断することが事柄の性質上極めて困難であり,たとい原告が客観的にみてそのような資質,能力を備えたものであると認められるとしても,今後大阪市記者クラブに所属しない報道機関ないし記者から同種の傍聴希望が出された場合に,本件委員会や大阪市会のその他の委員会(委員長)において上記のような困難な判断を強いられる事態も考えられなくはない。しかるところ,本件先例は,正に,誤って上記のような能力,資質を欠く報道機関に傍聴を認めた場合に生じ得る弊害の大きさ等にかんがみ,上記のような事態を避けるべく,委員会の傍聴を希望する報道機関に上記のような能力,資質が制度的に確保されていると認められるための基準として,大阪市記者クラブに所属する記者であるか否かという基準を設定し,原則として当該基準に適合する報道機関ないし記者にのみ委員会の傍聴を許可する取扱いを定めたものである。これらにかんがみると,村尾委員長が上記のような例外的取扱いをせずに本件不許可処分をしたことが,本件条例12条1項により委員長に付与された裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。

参議院議員定数配分規定の合憲性(最大判平成21年9月30日)

3 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない

 上記2(1)において指摘した参議院議員選挙制度の仕組みは,憲法二院制を採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員については3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし,相応の合理性を有するものであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえない。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本的に国会の裁量にゆだねられているものである。しかしながら,人口の変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

 以上は,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)以降の参議院(地方選出ないし選挙区選出)議員選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところでもあって,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。

 そして,当裁判所は,昭和58年大法廷判決以降,参議院議員通常選挙の都度,上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の合憲性について判断してきたが,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの,いずれの場合についても,結論において,各選挙当時,参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示してきたところである。しかし,人口の都市部への集中が続き,最大較差1対5前後が常態化する中で,平成16年大法廷判決及び最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁においては,上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等をより重視すべきであるとの指摘や,較差是正のため国会における不断の努力が求められる旨の指摘がされ,また,不平等を是正するための措置が適切に行われているかどうかといった点をも考慮して判断がされるようになるなど,実質的にはより厳格な評価がされてきているところである。

4 上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。

 参議院では,前記2(4)のとおり,平成16年大法廷判決中の指摘を受け,当面の是正措置を講ずる必要があるとともに,その後も定数較差の継続的な検証調査を進めていく必要があると認識された。本件改正は,こうした認識の下に行われたものであり,その結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小することとなった。また,本件選挙は,本件改正の約1年2か月後に本件定数配分規定の下で施行された初めての参議院議員通常選挙であり,本件選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であったところ,この較差は,本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で施行された前回選挙当時の上記最大較差1対5.13に比べて縮小したものとなっていた。本件選挙の後には,参議院改革協議会が設置され,同協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置されるなど,定数較差の問題について今後も検討が行われることとされている。そして,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには,後に述べるように相応の時間を要することは否定できないところであって,本件選挙までにそのような見直しを行うことは極めて困難であったといわざるを得ない。

 以上のような事情を考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,本件選挙当時において,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。  

5 しかしながら,本件改正の結果によっても残ることとなった上記のような較差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。ただ,前記2(4)の専門委員会の報告書に表れた意見にもあるとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できないこのような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないが,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれる